店主、鶴巻孝平。9年前に2トントラックの運転手から常連だったことが縁で、まったく経験のないこの世界に転身し、吉村社長から店を任されるまでにいたった努力家である。吉村社長といえば、マスコミで報じられている通り、超スパルタで知られるが、鶴巻さんの教育も半端じゃない。味に妥協しないために時には従業員に罵声を浴びせる。本物の味は厳しい修行からしか生まれないと考えているからだ。だから環2家の厨房には常に心地よい凛とした緊張感がある。
そんな環2家にはもうひとつの大きな特徴が。なんと子供用の椅子が6脚、それに幼児対応ができるよう折畳み式の座敷まであるのだ。経営者なら普通は行列をスピーディーにさばくことを第一に考えるはずだが、鶴巻さんはそう考えなかった。一見のお客さんだろうが、子供だろうが、来ていただいた方はすべて大切なお客様という発想である。そんな鶴巻さんの発想が、常時20人から30人の行列のできる人気ラーメン屋であるにも関わらず、家族連れが絶えない住宅地の繁盛店という側面をも作り上げたといえる。
鶴巻氏の夢は、従業員全員に将来、店を持たせることだという。自分が吉村社長から受けた恩を返したいのだそうだ。若い連中は皆、地方から出てきて頑張っている。必ず一旗あげさせて、故郷に錦を飾らせてあげたい。そうすれば、全国に吉村社長の味を継承することもできる。そんな鶴巻氏の弟子に対する愛情が、厳しさとなって現れ、妥協のない味を生み出し、常連の舌も赤ん坊の舌も同じようにうならせる。これが環2家鶴巻一家のサクセスストーリーの原点である。
時代が時代ですぐにネットに書き込みをされるし、お子様も多いので、最近は従業員への鉄拳制裁はすっかりなりを潜めている。吉村社長の鉄拳制裁と罵声を15年前から見てきた私にとっては、ちょっと寂しい気もするが、それでも環2家の厨房には凛とした緊張感が走り、一流の味を守り続けている。もう鉄拳制裁なんかなくたって、鶴巻氏の魂はすでに従業員全員に浸透しているのだ。
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