2009年、飲食業界に今、起こっていること
編集 とにかく今、暗い話題が多過ぎます。今日は中島社長に飲食業界で働く人たちに元気や勇気を与えて欲しい。そんな狙いもあるんです(笑)。
中島氏 そうですね。僕たちはタフにしたたかに生き残って、やはり「食は命だ」ということを継続していかなくちゃならない。今、危機感を募らせている経営者や飲食で働く人たちがより一層増えていると思うけれど、こんな時期だからこそ知恵を出しあって、助け合って乗り越えていかなくちゃね。
編集 世界的経済危機という外的要因がものすごく影響していることは分かりますが、飲食業界が直面しいる課題・問題はどんなことだと思われますか?
中島氏 不況感が消費者一人一人にまで深く入り込んでしまったということ。例えば僕は、朝起きて「今日は気持ちがいい朝だなぁ」と感じると、その日は確実にお店の売上げがいい。でも今日みたいにみぞれ混じりの天気だったりするとなんとなく気分が落ち込む。そういう日って本当に売上が伸びないんだよね。「早く帰って家で鍋でもやろうか」とみんな思う。環境要因に影響されるのが飲食ビジネスだということは以前から分かっていることだけれど、今はそこにプラスして個々が不況を実感し、節約モードの事態になっているからますますきつい。「外食でパッとやろうか」という頻度が減ってしまうわけだからね。
編集 内的要因としてはどんなことが考えられますか?
中島氏 飲食業界が時代の変化に対応できていないという面はあると思いますよ。消費者のニーズというより「消費者の飽き」に対応する策が後手に回っている。やはりちょっとした魅力や驚きを提供し続けられるお店でないと、お客様は離れていってしまう。
編集 例えばどんなことですか?
中島氏 商品とサービス、その両方だと思う。例えばだんだん売上げが落ち込んできているのに、商品を見直していない。もう今までのやり方、既存のやり方じゃダメだよって結果が見え始めているのに何もしない。そういうことってあるでしょ?やはり勇気を出してトライしないと。 例えば日本ならではのしっとりしたハンバーグじゃなく、つなぎを殆ど使わないような牛肉を味わってくれ!というような商品をやってみるとか。もちろん当たるかどうかは分からない。でも変化という努力をしなければ現状を変えることはできないと思うんですよ。
編集 サービス面で気になるというのは?
中島氏 こんなの必要ないな、バカ丁寧だな、って思うことないですか?価格帯やお店の形態が違うのに、どのお店も画一的なサービスをやろうとしているような気がしてならない。クレームを恐れているのかもしれないけれど、サービスの本質ももう一度見直す時期にきている気がしますね。
飲食業界を取り巻く環境の変化
中島氏 さっき外的要因の話しが出たけれど、もう少し身近な外的要因というのもあるんですよ。「金融やITをはじめとする知的ビジネスの介入」です。例えばカード会社。飲食店はお客様がカード決済の場合売上の4〜5%をカード会社に支払っています。採用もそうですね。求人広告や紹介には手数料がかかる。もう一つはネットやフリーペーパーによるお客様の囲い込みです。料金offなどなんらかのサービスを最初から強いられる。もちろんそこで共存したり助けられる部分も大きいんだけれど、お店側のコストはそれらの影響でここ10年で跳ね上がっている。
編集 儲けようにも儲からない?
中島氏 きついと思いますよ。だから「食にはこれだけコストがかかっている」と認識して、お客様からきちんとプロフィットをいただかなければならない。そこを押さえておかないと、本当にみんな潰れてしまう。
編集 昨年末、中島社長が呼びかけて『外食決起集会』※が開かれましたよね。どんなことが話し合われたのか、ご紹介いただけますか?
中島氏 去年は事故米の影響などで大変苦労された酒造メーカーなどがあったでしょう?僕ら友人でも仲間でもあるし、飲食業界全体も元気がないから、ちょっと集まって知恵を出し合って、潰れちゃう会社なんかが出ないように力を合わせようということでね。
若手の新興勢力も併せて20名の経営者が参加して、飲食業界の変化・再生について話し合いました。「ウチの会社ちょっと困ったな」と思った時、手を挙げて相談できる場所を作ろうということで、今後、事務局を作るなど具体化していこうとしています。
「もうアイデアがない」時も、必ず出てくる
編集 変化への対応が必要なんだということはみなさん何らか実感されていると思うんです。でも具体的にどうしたらいいのか、ですよね?
中島氏 僕が飲食の世界に入ったのは42歳の時で、決して早いとは言えない。しかも業界のことをよく知らなかった。でもそこが逆に良かったんだよね。「なんか飲食全般のここが変だな」を商売にしたからお客様のニーズに合致した。既成概念のない新しい頭がやったから成功した。今の新興企業もそうですよね。挑戦者だから新しいことをやって成功している。既存企業もそういう部分を大切にしていかなければならない時代だと思うんですよ。常に再生機能を会社に作っておく。「もうアイデアがない」って頭を抱えても、何か必ず人間は考え出します。そこに自信を持ってね。
編集 食の世界だけに目を向けていたのではダメですか?どんなところにヒントがあるんでしょうかね?
中島氏 僕は家具や洋服なんかの形あるものに興味があって、センスがいいってどういうことだろうっていつも考えているけれど、あまり知り過ぎても難しく考え過ぎてしまう。やはり物事の本質をつきつめることは大事だけれど、その上で自分はどういうスタイルでやるか一本筋を通していけばいいんじゃないかな。
あと、メディアなんかに変に左右されないことね。メディアは本流じゃないから面白がって取り上げることが多いでしょう?「よし、これが流行ってるからこれでいこう!」なんて乗ってしまったらうまくいくはずないんです。
変化に対応する新しい商品・サービスの開発と実践、継続促成的な再生というキーワードが出てきました。次回、その詳細をインタビューしていきます。
※『外食決起集会』
2008年12月3日に開催された。集会の発起人となったのは際コーポレーションの中島武代表取締役社長をはじめとする外食経営者など総勢20人。昨今の世界的経済危機に立ち向かうため、業種業態を越えて団結し、士気向上や情報交換を行おうというもの。
発起人の講義の他、「外食の近未来像」についてのディスカッションも行われた。