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第1034回 株式会社鶴兆 代表取締役社長 石井久恵氏
update 24/08/13
株式会社鶴兆
石井久恵氏
株式会社鶴兆 代表取締役社長 石井久恵氏
生年月日 1959年3月30日
プロフィール 創業者の一人として、「炭火焼肉鶴兆」を名門に育てる。2024年現在、奈良、大阪に8店舗、フランチャイズ2店舗(うち1店は東京)を展開している。企業理念は「愛すべき会社をつくりあげる」。「納得」の二文字をキーワードにつくった三箇条に、細やかな気配りと、思いやりがうかがえる。ちなみに、2024年現在の「鶴兆」の業績は客単価4000円で、月商一億円を叩きだす。
主な業態 「鶴兆」
企業HP https://tsurucho.net/

創業36年、名門「鶴兆」。

「鶴兆」は奈良、大阪の有名な焼肉チェーンの一つ。創業は平成元年。ホームページによれば、創業当時はプレハブ小屋のような造りだったとのこと。いまのおしゃれな装いからはイメージするのはむずかしい。
さて、今回、ご登場いただいたのは、この「鶴兆」の代表取締役社長、石井 久恵さん。
美術大学出身で、もともとは幼稚園に勤めていたというから、経営者としては異色の経歴。結婚が縁で、今の事業を開始することになり、代表となった。
アルバイトを含め、スタッフの母親的な存在。社員のほとんどがアルバイトからの登用で、いままで採用に困ったことがないというのも、石井さんの人間力と人柄の表れにちがいない。インタビューでも、ついつい話に引き込まれてしまう。
「今、私たちがいちばん大事にしているのは、コンプライアンス。その一方で労働環境を充実させてきました。保険はもちろん、賞与や休日休暇、評価制度も整備されていると思います」。
公私ともに、いそがしい石井さんにリフレッシュの方法を聞いてみた。
「私はもともと主婦だったからか、食卓をつくるのが好きで、お料理とかですかね、本を読むのも息抜きの一つかな。あと、洋裁も趣味の一つなんです。でも、精神的にきつくて、どうしようもない時は、『ごめん』って言って、ハワイに逃亡します(笑)」。
そりゃそうだろう。石井さんのように、お客様にも、スタッフにも心をこめて接していれば、つかれないわけがない。

人も、店も育っている。

石井さんの一日は、本社に行き、各店の売上、クレームをみることからスタートする。日によって、勉強会を開催したり、定期的に店舗に出向いたりしている。
石井さんの来店は、スタッフにとって待ち遠しいことの一つにちがいない。
経営を委ねられる人材も育ってきた。石井さんは早くバトンタッチしたいそうだが、「『まだ早い』の一点張りだ」と笑う。
店舗スタッフ以外にも様々な仕事を担う人材が増えている。DX化に向けたシステム系の人材も、その一つ。ECビジネスの構想を実現していく、強力なパートナーである。
「有名な企業の出身者ばかり」というから、人材、揃いなんだろう。大人気の「カルビスープ」のネット販売は、案外早く実現するかもしれない。
ともかく、いま「鶴兆」は、ECビジネスの世界に向けアクセルを踏み込もうとしている。この決断力もまたすごい。あえてシンプルに表現すれば「男顔負け」である。
そんなエピソードをもう一つ。経営者の胆力が試されたコロナ禍の時の話である。

コロナも逃げ出した経営者の啖呵。

奈良県には「松尾寺」という日本最古の厄除け寺がある。「聖徳太子が法隆寺から山の道をたどって建てられた」と石井さんから説明を受けた。ウィキペディアによれば、奈良県の大和郡山市と斑鳩町との境にある標高315mの松尾山の中腹にあるとのこと。
中腹だけに、参拝もたいへん。
「だって、石段が108もあるんですから(笑)」。だが、石井さんは、毎日、朝8時に山門をくぐった。雨の日も、雪の日も、かかさずに。
願うのは、コロナ禍の、厄除け。
「奈良や大阪でも、2020年4月くらいからコロナウイルスが騒がれはじめます。『鶴兆』にも、コロナは押し寄せます」。
みるみる業績が落ちていったそうだ。石井さんは、釈然としなかった。「なんでウイルスごときに負けなあかんねん」。石井さんの当時状況を推測すると、そんな言葉になる気がする。
とにかく、店を、社員を、守らないといけない。
「6月には売上が1/3になって、役員たちが、『このままだと9月に倒産する』というんです。彼らが唯一の道として、私に言ってきたのは『4店舗を残し、ほかの4店舗をクローズして、そこで仕込みをする。セントラルキッチンは閉鎖する』でした」。
石井さんは、閉鎖という言葉を重ねる役員たちをどんな表情で見つめていたんだろうか。「なにいうてんねん」。ついに、でてきた言葉は、叱責のトーンだった。
「だれが、『鶴兆』をつくってきたと思ってんの。9月になって、もしそうなったら、私の資産をぜんぶ処分して、借金は0にしたげるわ」。
銀行は石井さんの味方だったが、外部の手は借りない。国の補助金にも一切頼らない。決死の生き方が、役員及び社員の不安を一掃する。むろん、石井さんの意思は、アルバイトに至るまで伝わった。
すべてを独りで背負う。その重さに打ち勝つため、毎朝、山門をくぐった。祈りではなく、それ自体が彼女のたたかいだったのかもしれない。
結果はどうだったんだろう? 気になってうかがうと、「7月になって、店内の様子は様がわりして、業績はうなぎ登りです」と痛快な回答が返ってきた。
もっともコロナ禍はそれからもつづく。
だが、一度みた、経営者の姿はだれも忘れない。「あの時の社長の一言があったから、コロナを乗り切ることができた。絆がつよくなった」と、スタッフは声をそろえる。

もうすぐ新たな展開、始まる。

さて、2024年、コロナ禍を乗り越えた多くの企業が、新たなことにチャレンジしている。「鶴兆」では、石井さんがいうEC事業の準備が整い始めている。
ECを強化するその一方で、焼肉にかわるもう一つの主力ブランドを今、模索している。筆頭は「うどん」。香川にも何度も視察に行っている。
もちろん、石井さん自身、焼肉も好きだし、うどんも好き、ワインも大好きとのことだ。だが、それは石井さんのビジネスの、一つのかたちにすぎないのかもしれない。
「鶴兆」には「納得三箇条」という指針がある。「今日は鶴兆!」という言葉を頂くための「お客様の納得」を始め、「社員の納得」「取引先の納得」である。「納得」の二文字がいい。あいまいな言葉ではないからだ。
さらに、企業理念「愛すべき会社をつくりあげる」である。この理念があるからこそ、お客様、従業員、取引先を見失うことがない。
だれもが愛する会社。これは間違いなく理想郷だ。
飲食というビジネスを通じて、だれもが納得する、愛すべき会社をつくる。石井さんのめざすところは、ピュアでかつスケールが大きい。
愛される会社は、イコール愛されるお店でもある。ならば、店内に笑顔があふれて、当然だ。
1時間以上の長蛇の列ができるのも、笑顔になれるほどの、旨さとサービスの高さゆえだろう。
店を愛し、従業員を愛し、お客様や取引先を愛し。かくして、すべての人に愛される店はつくられる。

思い出のアルバム
 

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