株式会社ねぎしフードサービス 代表取締役 根岸榮治氏 | |
プロフィール | 東京の大手百貨店に勤務後、家業を支えるため福島県に帰郷。その後飲食の世界へ。宮城県、福島県、茨城県に多業態、多店舗出店後、1981年に東京進出。新宿に『牛たん麦とろ ねぎし』1号店を出店し多店舗展開を開始。現在、新宿を中心とした首都圏に25店舗と、有楽町に「コラーゲンと牛たん・テール料理 MARUNE有楽町」1店舗、カジュアルソウルダイニング『コパン・コパン』を展開中。 |
主な業態 | 「牛たん麦とろ ねぎし」 |
企業HP | http://www.negishi.co.jp/ |
1970年代の福島県いわき市郊外。2000坪の敷地に南仏風レストランができ、街中が大騒ぎとなった。仕掛人は根岸榮治氏。家業を立て直し、飲食という新たな事業へ進出し数年が経過した時期だった。
「お客様が行列を作ってくださり、笑顔で食事を楽しんでくれる。今まで味わったことがない嬉しさでした」。飲食サービスが持つパワーを実感した根岸氏は、それから紆余曲折あるものの様々なアイデアを形にし、レストラン事業を拡大していく。
今現在、名刺に刷られた“おいしい味づくりで楽しい街づくり”は、この当時から変らない企業ポリシーとなっている。
福島県に生まれた根岸氏の実家は、時計やメガネなどを扱う貴金属店を経営していた。しかし家業を継がず東京で就職した根岸氏は大手百貨店に入社。今では珍しい自動車販売を担当した。
ところが数年すると家業が倒産の危機に立たされていることを知り、父親を助けるために福島に帰郷し、奔走する。
あらゆる手を尽くして倒産を回避させることに成功した。だが時代の流れと共に昔ながらの貴金属店の経営が難しいと考えた根岸氏は、自分が意気揚々と取り組める仕事を模索。そして行き着いたのが、比較的参入障壁が低い飲食業であった。
飲食店経営に関する本を主軸とする大手出版社の編集長と懇意になった根岸氏は、情報交換の末に福島でカレーの店を出店する。
「編集長が売れっ子の建築士も紹介してくれ、福島県では強烈に斬新な店を作りました」。
国民金融公庫に何度も足を運び手に入れた300万円を元手にオープンしたそのお店は、想像をはるかに越えるヒットを生み、それをきっかけに根岸氏は東北に多店舗展開を行なっていく。
「仙台、郡山、日立、水戸に20のお店を続々オープンしました」。“いわき市郊外2000坪の土地に南仏風のレストラン”とはこの時作ったもので、半年がかりで建物が造られるさま自体が広告効果を生み、レストランはオープンから連日行列ができ、1時間待ち、2時間待ちの店として有名になった。
「今では考えられないことですが、どんなに待っても楽しく食事をし、次も来てくださる。まるで街の導線が変ったようで、美味しい物は楽しい街を作ると実感しました」。
そこはハンバーグやピザやパスタなどいわゆる洋風の食事を提供する店だったが、20店の業態はバラバラ。喫茶店、ラーメン店、和食店、貝専門店…。広域・多業態の店舗展開は“東京の流行を地方に持ってくる”というビジネス手法で成功していった。
しかし、どの店も4〜5年目には真似をされて衰退していく。ついには50m先の店に業態・料理ばかりかスタッフまで丸ごと持っていかれるという手痛い経験をした根岸氏は、事業展開について真剣に考えざるを得なくなった。そして出した結論は、100年続く永続性のある企業を作ること。そのために企業理念とビジョンを明確にし、企業の人財共育と風土作りを徹底することを決めた。
1981年、再び上京した根岸氏は物件探しの末、新宿歌舞伎町に『牛たん麦とろ ねぎし』1号店を出店。今度は“地方の名物を東京に持ち込む”という逆展開を行ない、選択と集中を徹底した。
商品力のある牛タン1業態の店舗展開を、本社を置く新宿から30分圏内のドミナントでやっていく。新生・ねぎしフードサービスは、“特定地域・1業態”のこれまでとは真逆の経営手法で成長していくこととなる。
さて、根岸氏が経営者として取組んだことは様々あるのだが、特筆すべきは人財共育だと言える。同社は『日本経営品質賞*1(http://www.jqaward.org/)』に参加し、昨年はオリンピックでいう銅メダルにあたる『経営革新奨励賞*2』を受賞、新宿区経営優秀賞も受賞している。再生の時に決意した「100年続く企業」は「人が育つ風土作り」に繋がり、実際に現場を任される店長主体で会社が動ごく風土が作られ、例えばこの賞の受賞にも繋がっている。
*1.日本経営品質賞とは
わが国企業が国際的に競争力のある経営構造へ質的転換をはかるため、顧客視点から経営全体を運営し、自己革新を通じて新しい価値を創出し続けることのできる「卓越した経営の仕組み」を有する企業の表彰を目的としています。(財)日本生産性本部(旧 社会経済生産性本部)が1995年12月に創設した表彰制度で、2009年度までの14年間に171組織が申請し、26組織が受賞しています。
*2.経営革新奨励賞とは
日本経営品質賞アセスメント基準に基づく審査において、セルフアセスメントを活用した経営革新活動に取り組みはじめ、申請後初めて総合評価で一定レベルに達していると認められた組織を表彰します。
ねぎしフードサービスには"本社"がない。あるのは"サポートオフィス"だ。またエリアを担当するのは"SV(スーパーバイザー)"ではなく"SSM(ストアサポートマネージャー)"だ。目標やルール決めを行なうのは、現場(店舗とセントラルキッチン)という第一線に立つ29名の店長であるため、彼らはよくサポートオフィス内にある"ねぎし大学"に集まり侃々諤々やり合っているという。
根岸氏は言う。「自由闊達に自分の意志で働ける環境が何と言っても強い組織を作るのです。僕は横でそんなみんなを見ているだけ(笑)」。社長や経営幹部を満足させるのではなく、お客様を満足させるために何をすべきか。どんな親切ができるのか。そこに集中して自由闊達に働く店長を輩出する人財共育が仕組み化されてきた同社は、目標とするビューティフルカンパニー(いい会社づくり)としての質を年々向上させている。
同社の店舗に行くと、必ずどのテーブルにも卓上アンケートがある。ある女性客の投函アンケート・・・
『花束を持ってお店にいったところ、スタッフの○○さんがテーブルに水を入れた花瓶を持ってきてくださり、帰りには花の切り口を濡れたテッシュとアルミホイルで包んでくださいました』。
接客マニュアルなどには一切書かれていない心配りを、自分の意志と行動力で実行するスタッフ。自由闊達さがお客様に評価されることで、スタッフは増々お客様のために頑張りたくなってくる。根岸氏は、よいスパイラルを生む仕組み化を社長の仕事としている。だから店長や社員がすぐに顔を合わせられる30分前後の場所への出店のみ。名古屋、大阪などからも引き合いがあるが断っているのは、過去の過ちを二度と繰り返さないためだ。
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