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第284回 株式会社きちり 代表取締役社長 平川昌紀氏
update 12/04/24
株式会社きちり
平川昌紀氏
株式会社きちり 代表取締役社長 平川昌紀氏
生年月日 1969年7月16日
プロフィール 大阪に生まれる。甲南大学を卒業後、リゾート開発の会社に入社。1997年11月、27歳でモスバーガーのFC店を開業。翌年、7月、有限会社吉利を設立し、代表取締役に就任する。2000年11月、現在の「株式会社きちり」に商号を変更。2007年、株式上場を果たし、2012年初頭、体重計などの計量器の製造・販売で知られる株式会社タニタと提携し、「丸の内タニタ食堂」をオープンし、注目を集める。現在、関西で46店舗、関東で15店舗を展開している。
主な業態 「KICHIRI」 「真菜や」「福力」「エキカフェ」「smile kichiri」「ちゃぶちゃぶ」「Rookies」他
企業HP http://www.kichiri.co.jp/

「ユダヤの商法」と「思考は現実化する」。出会った二冊の本。

平川が外食で起業をめざした背景には二冊の本との出会いがある。一冊は、日本マクドナルドを創業した故藤田 田氏の「ユダヤの商法」である。「ユダヤの商法を読んで、これからは食と女性がターゲットの時代になると確信しました。それで、<外食産業の新スタンダードの創造>というビジョンを設定したんです」。ちなみに、平川の世代は、ファミリーレストランの勃興と衰退を同時に観ている。セントラルキッチンを軸にしたチェーンオペレーションはたしかに一つの時代を築いたが、すでに全盛期のパワーはない。そう考えると、外食は移り変わりが早い。ならば、自分にもまたチャンスがある。新たなスタンダードを創造することで、新たな外食ビジネスのイノベイターになれるのではないか、と平川は考えた。
もう一冊は、ナポレオン・ヒルの「思考は現実化する」である。「この本を読んで起業を決心した」と語っている。二冊の本との出会いは、平川の創造的かつ野心的な部分を刺激したのではないだろうか。
ところで本を読むということはどういうことだろう。先達がさまざまな経験を通して手に入れた思考やノウハウを、時間をかけず手に入れることだという人がいる。彼によれば、本を読み、活用するということは、たとえるなら数学者たちが苦労して編み出した方程式を利用するようなものなのだそうだ。
もちろん、文字と格闘しただけではない。外食で起業すると決めた平川は、肉体労働など賃金の高いアルバイトに精をだし、お金がたまると、それを軍資金にホテルの高級レストランなどで食事をした。味とサービスの研鑽である。印象に残っているお店を伺うと、神戸三ノ宮にあったある店の名が挙がった。「8割が女性なんです。若い女性だけじゃなく、年齢層も広い。インターネットがない時代で、口コミだけなのに、行く度に行列です。私も、女性客をターゲットにと考えていましたので、勉強になりました」と語っている。

トップセールスをめざして。

大学時代、外食での起業を志ながらも、いっさい外食関連で働かなかった平川だが、卒業しても、遠回りを続けた。「新卒で入社したのは、リゾート開発の会社です。どうして? とよく聞かれるのですが、知らない人と話すことや売り込むことが得意じゃなかったんです。リゾート会員権の販売はハードな仕事だと知っていましたが、逆にそういうきびしい環境で、不得意な部分を矯正したかったんです」。「たしかにハードな仕事でしたが、好奇心は旺盛なほうでしたので、さまざまなタイプの富裕層の方とお会いするはたのしみでした」。
入社1年目の12月には新人ながら全社員のなかでトップセールスを記録する。「2年目には、翌年の新卒6名全員が私の部下に配属されました。彼らとチームを組み、新たなしくみづくりにもチャレンジしました。しかし、このチームが解体されることになり、私は会社を去るのです」。経営陣からは、猛烈に引き止められた。だが、「トップセールスになる」「部下を持つ」、入社当初考えていた2つのことが達成できたことで、平川は次のステージに向かう決心をする。「部下がいなくなったので、彼らに対する責任もなくなった。それが、この時期になった理由です」。

モスバーガーのFC店、開業、外食に第一歩を記す。

その会社を退職した平川は、いったん父が経営する不動産関連の会社に就職する。その会社でも成果を上げるが、平川の視線の先にあるのは、新時代のイノベイターになることであり、そのために外食で起業する自らの姿だった。入社して半年から1年、いよいよ平川の起業が始まる。
「モスバーガーとフランチャイズ契約を結びました。もっとも価値があると判断したからです」。自信はあった。投資額は4000万円にものぼる。社員2名。はなばなしいスタートを切るはずだったが、思いとは逆に、半年間、赤字が続いた。給料も取れない。「タダ働きのうえ、お金が毎月、なくなっていきます。最初は、止めておけばよかった、そう思ったこともありました。それでも、外食には、ほかにはないほどいい人が集まってくるんです。その人たちが支えになりました」。トライアンエラーを繰り返し、ノウハウを少しずつ積み上げた。結局、1年後にはエリアでナンバー1の業績を上げるに至る。
「モスバーガーのビジネスは、原価率や人件費率をきちんと管理しなければ利益が出ないしくみなんです。その時、数字とも格闘し、細かく管理したことがいまの財産になっています」。いったん始めたからには、まっとうする。ストイックな精神が、困難な「数字のコントロール」というベテラン経営者でもなかなか難しい第一のハードルを越えさせるチカラとなった。

「丸の内タニタ食堂」で、異業種とのコラボレーションを実現する。

年表で追うと、1997年11月、27歳でモスバーガーのFC店を開業した、その翌年7月に、有限会社吉利を設立。2年後の2000年11月、現在の「株式会社きちり」に商号を変更。2007年、株式上場を果たした。2012年段階で、開業より15年が経過している。さまざまなTV、雑誌で取り上げられた「丸の内タニタ食堂」のオープンは、2012年の初頭。体重計などの計量器の製造・販売で知られる株式会社タニタと提携。異業種との初のコラボレーションで、「きちり」の名も全国区になる。
「丸の内タニタ食堂」について、もう少し紹介すると、同店は、累計400万部を超える超ベストセラーのレシピ本を作成した体脂肪計タニタの社員食堂のメニューを忠実に再現する斬新なスタイルの店舗である。「メニューをいっしょに作らせてもらって改めて日本食の偉大さに気付きました。油も少ない料理ですから、からだにいいばかりではなく、洗剤も少なく済み、自然にもいい。魚や野菜がメインになり、副菜2品と汁物。ヘルシーなだけではなく、摂取できる栄養のバランスもとてもいいんです。和食がいま世界的に注目されているのも頷けます」と「タニタ食堂」について平川は語っている。
このタニタとのコラボレーションは偶然の産物ではない。今回のコラボは、平川が創業以来、追及してきた「外食産業の新しいスタンダードの創造」がカタチとなって実現した一例である。たしかに女性という、もともと平川が狙ったターゲットにもドンぴしゃりといえるだろう。

強力なプラットホームで新たな挑戦を開始する。

今後の展開も聞いてみた。「現在、関西46店舗、関東は、15店舗です。関東には関西以上のマーケットがありますから、関西の3倍、150店舗ぐらいの出店をめざしています。一方、タニタさんとのコラボレーションのように、異業種とのコラボも進めていきます。私たちが持つプラットホームを、コラボというかたちで活用いただくのが狙いです。<健康やダイエット><エンターテインメント><一次産業>とのコラボを考えています」。
平川がいうプラットホームとは、「きちり」が創業15年の間に育成・強化してきた、[1]バックオフィス(事務、人事、店舗開発)[2]バックヤード(調達、流通)[3]バックアップ企業(お取引業者)の3つが軸になっている。言い方を替えれば現在の「きちり」の「事業力」。それを解放しようというのだ。
「うちにはデザイナーもいますし、コンサルティングもできます。そう言って胸を張れるのは、私たちが実業を行っているからなんです」「コラボだけではなく、私たちのプラットホームをBtoBなり、社内の独立制度なりで活用していくことも検討中です。関東、関西は私たちで抑えますが、それ以外のエリアであれば、外食への参入を検討されている企業さまや、新たな業態を検討されている外食企業さまのお話を伺っていこうと思っています。私たちは実業を持っていますので、必要であれば運営まで行える、これが一般的なコンサル会社にはない、強みだと思っているんです」。
すでにオファーも少なくない。「タニタ食堂」の成功によって、海外からも打診されるケースが少なくないようだ。

もう一つの「外食産業の新しいスタンダードの創造」。

このような「きちり」の将来を左右するのは、人材にほかならない。最後に平川が考える人材についても触れておこう。「いろんな個性があっていいと思っているのです。たとえば、私たちの理念に共感してくる人たち。もう一方で、私たちのビジョンを実現するために現場で汗を流してくれる人たち。大きく分けるとこうなります。大事にしたいのは仕事をして、たのしいかどうか。スタッフとは全員、『幸福感』を共有していきたいと思っているからです」。
「今期も恒例行事となった海外旅行に出かけました。社員と社員の家族200名を連れて、ニューカレドニアへ行ってきました」。
そういって平川は今日いちばんのうれしそうな表情をつくった。「外食産業の新しいスタンダードの創造」は何もビジネスの話だけに限ったことではなさそうだ。待遇や福利厚生も含め、社長と、社員やアルバイトスタッフ一人ひとりとのつながりもまた新しい気がする。

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