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第31回 株式会社スワン 代表取締役社長 海津歩氏
update 08/12/16
株式会社スワン
海津歩氏
株式会社スワン 代表取締役社長 海津歩氏
生年月日 1961年、東京都生まれ。
プロフィール 高校卒業後、ヨガインストラクターや演劇音楽制作などの仕事に携わる他にも多数のアルバイトを経験。1985年、ヤマト運輸に入社。営業所長、支店長を歴任。
1997年「スワンベイカリー」を経営する株式会社スワンの代表取締役社長に就任し現在に至る。
主な業態 「スワンベイカリー」
企業HP https://www.swanbakery.jp/
東京千代田区にある特許庁近くのオフィス街に店舗を構えるカフェ「SWAN BAKERY」は、ランチタイムの12:00〜13:00だけで200名のお客様が訪れ、スタッフが次から次へと接客に勤めても行列ができてしまう繁盛ぶりを見せている。製パン、接客、レジ…。一見では分からないが、忙しく働くスタッフの半数はなんらかの障害を持った人たちで、うち70%は知的障害のあるスタッフだという。障害者雇用という難しいとされている課題に正面から取り組み、全方位にWin Winの波を広げている海津社長に話を聞いた。

「私は障害者の代弁者ではありません。株式会社の社長です(笑)」

 「SWAN BAKERY」の創業は、ヤマト運輸を築いた故・小倉会長が私財を投じて「ヤマト福祉財団」を設立したことに端を発する。1993年当時、月給1万円で働く障害者の現実に愕然とした小倉会長は、障害者の経済的自律支援を理念に活動を始める。それがきっかけとなって「アンデルセン」ブランドを展開するタカキベーカリーの社長の協力で、冷凍パン生地の提供を受け、障害者と健常者が共に働く「SWAN BAKERY」が誕生した。
今年設立から10目を越えた(株)スワンは、現在全国に26店舗を展開し270名の障害者が働く(その70%が知的障害者)。しかし設立当初から経営が軌道に乗っていたわけではないという。ヤマト運輸で様々な経営経験を積んできた海津氏に白羽の矢がたったのはそのためだった。
「私は福祉についても素人でしたし障害者雇用の専門家でもありませんでした。しかし人々が“あったらいいなぁ”と思うサービスや“人のためになるビジネス”は必ず成功すると信じています。ヤマト運輸がそうだったように、動機が善なら不可能はないという理念をそのままスワンに取り入れたんです」。海津氏はどの企業もがそうであるように、顧客第一主義によって利益を生む会社経営を実行していった。
「どんなに素晴らしい理念を持っていても、売れる商品と売れる販路がなければ商売は成り立ちません。私はスワンの社長を引き受けた時、障害者主体の会社ではなくお客様主体の会社でなければ発展はないと思いました」。つまり海津氏は、障害者雇用を促進していることに重点を置くのではなく、ベーカリー、カフェとして存在意義のある店舗を経営することで企業成長を実践してきた。考えてみれば資本主義社会の中で当たり前の経営を行ってきた、ということなのだ。


長所を活かし短所を助け合う。組織ならば当たり前のこと

 海津氏がヤマト運輸の経営的に苦しい支店の支店長だった頃のこと。なんとか利益を上げるために、まず社員個々の得意分野に着目したという。「あなたは何が得意なの?」「僕、人と話すのが好きです」「僕は体力には自信があります」。前者には宣伝担当として地域回りを任せ、後者にはチラシまきを担当させた。そして面と向かって2時間。やっと「早起きが得意」といった社員に、朝いちばんに出社し支店をきれいに掃除し他の従業員を迎えるという仕事を任せたという。得意な仕事ならば人はイキイキと働く。その支店はみるみる業績を伸ばし、なんでもビリの汚名を晴らしていったのだという。
得意不得意は誰にだってある。だから組織として動く企業が成り立つ。海津氏は、その経験をスワンにスライドさせているにすぎないのだ。「例えば知的障害のある社員は、ある一つの作業を完璧にこなすということが少なくありません。ですからそこをうまく引き出してさらにブラッシュアップできるよう支援していく。逆に苦手なことは他の社員がカバーすればいい。これって、普通のどこにでもある会社と同じですよね」。
製パン、レジ、接客。さまざまな役割分担を障害者も健常者もシェアする職場でスキルを磨いた障害者が、その能力をかわれて銀行に転職していったこともあるという。また、障害者雇用に関心を持つ大手外資系カフェチェーンが同社を度々訪れ、すでに「SWAN BAKERY」をお手本とした店舗運営を始めたという。


権利と義務。
どの社員にもどのポジションにも平等でなければならない

 オフィス街にある「SWAN BAKERY」赤坂店は、平日40万円を売り上げるカフェだ。昼時の1時間だけで200名の顧客が訪れ、スタッフにとってその忙しさを乗り切る毎日は大きな達成感となる。
「仕事を任され充実感があると、人は当事者意識が芽生えます。気概を持つようになる。なので任せた障害者が休むと、あえて穴の空くスケジュールになっている」。海津氏は、働く義務、それによって得る報酬の権利はどんな人にとっても、どんなポジションにいる人にとっても同じだと考えている。だから定時に出社し、笑顔で挨拶し、人の悪口を言わずにきちんと仕事をする。その社会人としてやるべき基本を障害者の親御さんにも正しく理解してもらい、家を送り出して欲しいと話しているという。
そのかわり雇い主としては社員に仕事を任せ、できる喜びを分かってもらった上でさらなるスキルアップを責任を持って支援する覚悟でいる。もたれあいをせず、厳しい仕事の中に充実感を得る仕事環境を作り出す。やはりここでも、障害者・健常者という垣根ではなく、スワンで働く社員全員が平等な義務と権利を持つ組織という概念で運営されている。
さて、定時に出社し、笑顔で挨拶し、人の悪口を言わずにきちんと仕事をする…。これもごく普通に企業にとって大事な基本といえる。しかし心の病などが増えている現在では、定時出社ができないなどの悩みを抱えている人も多い。自分の能力とあるべき姿に乖離があるからなのではないだろうか?スワンの適材適所を見ていると、改めて現在の社会生活のあるべき姿を考えさせられてしまう。
「少子高齢化の中で確実に障害者雇用のニーズは高まります。そして障害があるからといって、できるのにやらせないことも多すぎる。資本主義なんだけれど福祉の話になった途端に社会主義になってしまう。そんな世の中ではもうダメだと思うんですよ。日本全体が一皮剥けないとね」。


やんちゃで真直ぐ。20代の頃から変らない行動派

 海津氏がヤマト運輸に入ったのは、リーゼントもできた20代の頃。宅配品質を上げるため“時間帯お届け”や“羽田空港のカウンターを5:00?23:00まで開ける”などの企画・実行をしていったのも海津氏で「組合から怒られた」こともあるという。しかし「ヤマト運輸があと30年継続成長するビジネスモデルを考えよ」と言われ、真直ぐにあるべき姿を見つけていく姿勢はどんな環境に立たされても変らなかった。そしてそのエッジの効いたキャラクターは、今もって変らない。
「小倉昌男というカリスマもそうですが、先輩や友人、お客様。私は本当に良い人たちとの素晴らしい出会いがあって今があります。ヤマト福祉財団は経営と障害者は両立するという理念を持っていて、スワンはその執行部隊。これからも課題を解決しながら、ソーシャルベンチャーとして始まった会社を一企業として成長させていきます」。
現在同社は、ベルギーのチョコレートメーカーとのコラボレーションによる“ショコラ・ファクトリー・スワン”構想も進め、まずは店舗の一角で商品紹介などを始めている。
また、新しい障害者雇用も進んでいる。パソコン操作ができれば自宅勤務で仕事のやりがいと収入が得られる、という働き方だ。ネットショップによる注文を伝票に変換し流通現場へと発信する。現在この仕事を、全身麻痺の在宅社員が担当している。海津氏は、(1)社員の能力開発、そして(2)売れる商品の開発、(3)商品販路開発を企業成長の鍵としている。もちろん一般企業とまったく同じだ。一つだけ大きく異なるのは、障害者も個々によって違った能力を持っていて、それを発揮する機会、さらに磨いていく機会があれば確実に企業の戦力になるということに気づき、実際に会社の戦力として活用している点だ。
一度「SWAN BAKERY」に足を運んでみるのもいいかもしれないし、障害者雇用に興味のある人は海津氏に“面会”を打診してみるのもいいかもしれない。きっと目から鱗の新しい雇用・働き方について話が尽きないはずだ。

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