株式会社野乃鳥 代表取締役 野網厚詞氏 | |
生年月日 | 1973年4月20日 |
プロフィール | 大阪工業大学卒。大学2年時に「やきとり大吉」の1号店でアルバイトを開始。店主にも触発され、独立起業を志す。25歳での起業をめざし、料理店で本格的に修業し、目標通り25歳で1号店をオープン。2018年現在、大阪府内に10店舗。12月には11店舗目をオープンする。その一方で、生産者と協業し、「幻の鶏」と言われる「ひょうご味どり」の普及もめざしている。現在も毎日、セントラルキッチンで、鶏をさばくのは、野網氏の仕事。 |
主な業態 | 「野乃鳥」「ビストリッシュ」「梅味堂」「天参亭」他 |
企業HP | https://nonotory.jp/ |
行動科学という学問があるらしい。調べてみると「人間の行動の法則性を科学的に解明しようとする学問」だそう。今回ご登場いただいた野網氏は、大学時代、これを学んでいる。「大阪工業大学に進み、行動科学を勉強しました。もっとも、勉強したのは興味のあるこれだけで、あとはバイト漬けが正直なところです/笑」。
野網氏が、とくに興味をもったのは、モチベーションサーベイ。仕事に対するモチベーションだ。理由がある。「当時から25歳で起業しようと思っていました。やるなら事業化したいとも。だから、私はもちろんスタッフをマネジメントしていくうえで、モチベーションの正体を知るのは大事なことだったんです」。
当時は、デール・カーネギーの「人を動かす」「道が開ける」などが愛読されていた。野網氏も、もちろん読んでいる。「私自身は、このような先人たちの理論を実証してみるというもう一つのテーマを掲げていました。いわば、私の人生を通して行動科学という学問を実証してみようという試みです」。
自身のモチベーションは、25歳での起業。バイト先で芽生えたモチベーションだ。そんな話をまずしてみる。
野網氏が生まれたのは、1973年。出身は、大阪市阿倍野区。3人兄弟の長男である。父親の勧めで小学1年生から少林寺拳法を習い、中学2年生までつづけている。一方、中学からバレーボールをはじめ、キャプテンに。高校に進学したあともバレーはつづけ、近畿大会でベスト16まで進んでいる。
「寄せ集めのような部でしたが、なんとかベスト16まで進めたのは、ひそかな勲章です」。
家庭でも3人兄弟の長男。弟2人はもちろんだが、野網氏の背中を追いかけた人も多かったのではないだろうか。ちなみに、1つ下の弟は飲食店を起業し、6つ離れた弟はいま専務として、野網氏の会社ではたらいている。会社をいっしょに育てた人物は、中学時代の同級生だ。
「高校時代はバレー漬け。おかげで、入学時、300人のなかで8番だった成績が、一時、260番に急降下です。なんとか80番まで修正して、大学の推薦を手に入れました。そして、大阪工業大学に進んだわけです」。
「あの頃、親父の会社がなかなかうまく回っていなかったんです。設備関連の会社です。独立して、いち早くCADなども導入したんですが、うまくいきません。そのあたりのことも長男の私には語っていました。ええ、私も、時々、駆り出されました/笑」。
野網氏は「職人気質」という言葉を遣っている。職人仕事がCADによるコンピュータの仕事に置き換わる時期でもあったのだろう。CADを採り入れるなど先進的な父親と、職人気質のスタッフの間に溝が生まれても不思議はない。事業がうまく進まなかった一因かもしれない。
「大学時代は、うちの仕事以外に、いろんなバイトを経験しました。車も、服も買いたかったですしね。その時、そう大学2年生の時です。『やきとりの大吉』でアルバイトをはじめるんです。結果的には、大吉でのバイトが、私に起業というモチベーションを与えてくれました」。
なんでも、野網氏がアルバイトをはじめた大吉は「大吉1号店」だそう。それも、一つのモチベーションリソースとなっている。
「やきとりの大吉」は、ご存じの方も多いと思うが、カリスマ経営者、辻成晃氏によって生み出された「独立支援システム」を軸とした事業体だ。正式社名は、ダイキチシステム株式会社。創業当時から直営店を1店ももたず、FC店のみで巨大な店舗網をつくりあげる。「大吉」を運営する独立心旺盛な人たちにも影響されたのだろう。飲食というビジネスにハマるとともに「25歳で起業」という目標をもつに至る。野網氏のそれまでを知れば、これは偶然ではなく、ある意味、必然だった。
「どうせなら、若いうちがいいだろうと。失敗するにしてもそのほうがリカバーできますしね/笑」。もちろん、志はハンパなものではなかった。当時から「やきとりで」とは決めていたが、料理を学ぶため、知り合いが経営する小料理屋で修業もしている。
「理系脳なんでしょうね。ゴールを設け、そこに進むためにどうすればいいか、というのをロジカルに考えます。かりに大吉で独立するにしても、料理の基礎は学んでおかないといけないと思っていたんです」。
大学時代に学んだ、行動科学。その科学を実証する手段も、次第に明確になっていく。
「私は23歳で結婚するんですが、大学時代から、独立を考えていたんで、お金もためていました。そして、25歳の時ですね。小さなお店ですが、池田に1号店をオープンするんです」。
なにが客を惹きつけたのだろう。オープンから順調に業績は推移し、3年後には2号店を出店するまでに至っている。
ホームページを開くと、旨そうな「やきとり」が目に飛び込んでくる。炭は最高級の紀州備長炭を使用。鶏は約百日という時間をかけ、じっくり飼育された銘柄鶏「播州百日鶏」である。ここに秘伝のタレが、からまる。旨くないわけがない。
大学2年というから「やきとり」にハマったのは、20歳の時だ。そこから起業をめざし、段階を経て、いまがある。そういう意味では、人気化したのは当然の結果と言えるのではないだろうか。
この間、いまは独立されているが、片腕となり、ともに会社を育ててくれたかつての同級生も、入社している。このインタビューを行った2018年現在、野網氏は45歳なので、起業は、ちょうど20年前の話となる。
さて、いくつもの「いままで」が交わり、「未来」がつむぎだされる。父親の事業、行動科学、飲食、経営…、その思考の先には何があるのだろう。
「今年の12月に、大阪のナンバに11号店を出店します」。ついに店舗数は2ケタにのる。しかし、事業拡大だけが狙いではないそうだ。
「うちはいま、池田市で、行政とタイアップさせてもらって地域の活性化に取り組んでいます。その一方で、数年前から兵庫県立播磨農業高校の生徒たちと連携協働する『地鶏復活プロジェクト』を開始しています。これは、かれらが独自の飼料を使って育てた『ひょうご味どり』を流通させる『地鶏復活プロジェクト』です」。
野網氏のミッションは、「店」という流通のゴールを、新たな出発点とすることだ。つまり、「店」を起点に「ひょうご味どり」が、「旨い鶏」として独り歩きしていく。「そうですね。とくに、今回出店するナンバはインバウンドで、海外の方も多いですし、この鶏の旨さが広がり、生産者さんたちが喜んでくれるようになれば、それがいちばんだと思っています」。
ホームページには<「ひょうご味どり」は、日本三大地鶏の二つ「薩摩鶏」と「名古屋種」に、「白色プリマスロック」という3つの品種を掛け合わせた交配種で、1991年に兵庫県立農林水産技術総合センターにより開発された>とある。<その食感はまさに「地鶏の最高峰」です>とも謳っている。
「幻の鶏」の地鶏復活プロジェクトを推し進める野網氏は、「ひょうご味どり」をメインとするビストロ「炭焼ビストリッシュ野乃鳥」までオープンしている。
「旨い鶏を求めて、生産者さんたちと触れ合ったことで、私のもう一つのビジョンが生まれました。実は、コンサルティングもさせていただいて、『鶏』の生産を地域の事業として残す仕事もさせていただいています。これもまた消費者を知る、私たちだからできることです。生産者さんと私たちがチームを組めば、それだけで状況はかわると思うんです」。
たしかに、「ひょうご味どり」を使用するレストランも現れている。
「そうですね。独立した当時は、野心というかね。独立して、いくらくらい儲けて、と、算盤も弾いていました。でも、実際に独立して、お客様と接し、スタッフとも接し、生産者さんたちとも触れ合っていると、そういうのが小さなことのように思えてきました。みんなでつくったチームで、何をするか。地域貢献も、地鶏復活プロジェクトもその一つです」。
「オレがよければそれでいい」。皮肉ではないが、その考えが、つよいリーダーシップを生むケースもなくはない。しかし、利己的な発想は、いずれ失敗という二文字を生みやすいのも事実であるし、さみしい気もする。所詮、じぶんのための事業には限界がある。
その点、野網氏という経営者にはわくわく感というのだろうか。仲間を得るたびに、その翼を広げていく、そんな印象がある。最後にもう一つ印象に残る話をする。
「いま私は、さっきの『兵庫県立播磨農業高校』で講義もさせてもらっています。講義がメインですが、実際に子どもらが育てた『鶏』を彼らの目の前でさばきもします。女の子なんてね。鶏を抱いて離そうとしない。いやだって泣くんです」。
「『いのち』です。『いのち』が、彼女たちの心を動かしているんです。とても大事なことだと思います。でもね。人間も、やっぱり動物なんですね。だんだん鶏をさばいていくと、ある段階を経ると、いつもの肉になる瞬間があって、そうなるともう泣きやんで、『旨そう』っていうんですね。それが、うれしくて」。
行動科学で検証されているかどうかわからないが、「旨そう」は人を動かす。教科書には載っていないが、野網氏が実証してきたことのひとつだ。
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