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第68回 株式会社ろのわ 代表取締役 澁谷剛氏
update 09/10/13
株式会社ろのわ
澁谷剛氏
株式会社ろのわ 代表取締役 澁谷剛氏
※2011年9月末現在 代表取締役 東 博己氏
生年月日 1963年、大阪生まれ。
プロフィール 明治大学卒業後、大和證券に入社。名だたる会社のIPO(株式の新規上場)をサポートするなど輝かしい実績を残す。その後、楽天に転職。主要なメンバーの一人として活躍。
このとき中国経済の勃興を目の当たりにし、日本の農業に危機感を抱く。2006年、独立。株式会社「ろのわ」を設立。
主な業態 「Lonowa駒沢」
企業HP http://www.lonowa.com/

無農薬の小麦、野菜を贅沢に使う、アンテナショップ「Lonowa駒沢」。

フード業界には、さまざまな経歴を持った経営者がいる。しかし「ろのわ」の澁谷社長ほど、かわった経歴の持ち主も珍しいのではないか。大学卒業後、大和證券入社、その後、楽天を経て、株式会社「ろのわ」を設立。
澁谷がアンテナショップとして位置付ける「Lonowa駒沢」は、野菜を中心にしたカジュアルレストラン。同レストランでは、国内で収穫された無農薬の小麦やイタリア料理で使われる日本では希少価値の高い野菜を使用している。
「うちのレストランでは、原価のことは一切言われない。しかも無農薬の小麦や野菜を使えるのですから、料理人たちは、みんな喜んで厨房に立ってくれます」と澁谷。優秀なシェフたちが、高価な素材を使い、腕を披露しているお店でもあるのだ。
この小麦や野菜は、「ろのわ」の社員たちが種を蒔き、収穫したもの。実は、同社のメイン事業は「農産物の生産」である。

澁谷の経歴をざっとご紹介すると、生まれは大阪、12歳になるまで大阪に住み、その後、父親の転勤で上京。
「関西弁がなかなか抜けず苦労した。小・中・高を通してサッカーを続けたが、ヘタッピでしたね」とも言いつつ、こちらを笑わしてくれる。
父親がエンジニアということもあって、高校時代は、漠然と理系を選択。3年の春。親友の2人から、進路を明確に定めていることを聞かされ、唖然とする。理系ではなく、経済学部をめざすようになったのは、このときから。「じいさんの代には商売をしていました。母方の実家も元をたどれば、商家、そういうこともあって商売をしようかな、と。それで経済のことを勉強したくなったんですね」。
一浪の末、明治大学経済学部に入学。このときの選択が、澁谷の歩みを決定する。

明治大学卒、「大和證券」、「楽天」を経て、農業にチャレンジ

卒業は1987年。円高不況の煽りを受けた就職氷河期。それでも澁谷は希望通り大和證券に入社する。当時の証券業界はNTTの上場もあり、個人が市場に参加しはじめた頃。バブルに日本中が浮かれる前夜でもあった。
澁谷は支店に配属され、個人を相手に株式投資をアドバイスする仕事に就く。バブルの頃は、それこそ「どの会社の株をお勧めしても上がる時代」だったそうである。
支店におよそ6年。その後、本部に移り、法人を対象にした業務に移行する。主にIPOという新規上場のアドバイスを行うようになる。このとき彼が手がけたIPOには有名企業がズラリと並ぶ。「エイベックス」「有線放送」「楽天」「サイバーエージェント」「電通」「総合警備」などなど。
2000年に、「楽天」に転職するのも、このとき知り合った社長の三木谷氏に惹かれたからだ。楽天時代の澁谷はどのような仕事を担当していたのだろうか。澁谷が主に担当していたのは新規事業の開発だったという。
「業務の一環として、中国に、楽天のビジネスをもっていけないか、というテーマを与えられたことがあるんですね。だから、中国をずいぶんウオッチしました。最初は、まだ経済が立ち上がっていないんですね。世界の工場と言われた頃です。しかし、2003年ぐらいでしょうか。上海に伊勢丹が進出するなどいよいよ消費大国というもうひとつの顔が現れてきたんです。13億人。これだけの人間が、消費するチカラを持てば、たいへんなことをなる、と」
澁谷は、ミッションとは別の意味で、危機感を持つ。同時に、過去に考えていた、いくつもの点が線になってつながった。というのも、大和證券時代、ネット関連の次には、農業関連が注目されるという漠然とした思いがあった。反面、中国が巨大な胃袋をみたす時代になれば、日本に回ってくる食物はなくなる。これはもう、自衛のためにも農業をするしかない、と。
漠然と思っていた「商売」と「農業」が、「起業」という言葉でひとつにつながった。

「農業」と「飲食業」のコラボで、日本の食文化の発展に貢献

社会のために、という言葉を澁谷はよく使う。「農業」も突き詰めれば社会のため。
2006年。ひとつの話が舞い込んでくる。準備は整っているが、途中で出資者が降りた熊本の農業法人の話である。ついにプランを実現するときがきた。
「最初は、勉強の1年。農業政策など日本特殊の事情がいろいろありますから」。お金を儲ける、という発想で始めたわけではない。日本の自給率を上げること、これがミッション。「だから最も自給率の低い小麦に目をつけたんです」と澁谷。そして無農薬で、上質の小麦の生産を始める。
「安全」や「安心」といったキーワードが食材にも求められる時代背景も味方したのだろう。イタリア料理店を中心に出荷が始まった。
「そのうちイタリアで栽培されている野菜を作れないか、という相談もいただけるようになって」。実は、イタリア北部の気候は日本と変わらないのだそうだ。だから、その地方の野菜なら、と日本では希少価値の高いイタリア野菜の栽培にも乗り出していくことになる。

それらの食材をどう利用し、どんな食材が消費者に受けるのかといったマーケティングもかねて、オープンしたのが「Lonowa駒沢」というわけである。贅沢な食材をふんだんに使えるのはそのためだ。

「料理人も、生産者も互いを尊敬し合っています」と澁谷。こういう組織はとても素敵だ。その真ん中に澁谷がいる。将来の目標は、食卓に乗るすべての食材を手がけること。「ろのわ」の存在を考えると、日本の農業を守るという意味合いだけではなく、収穫した食材を使って新たなレシピを考案し、発信するなど、食文化の発展にも貢献しそうな会社ともいえるのではないだろうか。

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