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第787回 株式会社テムジン/焼肉 冷麺 味楽園 代表取締役 康 虎哲氏
update 20/05/12
株式会社テムジン
康 虎哲氏
株式会社テムジン/焼肉 冷麺 味楽園 代表取締役 康 虎哲氏
生年月日 1974年9月14日
プロフィール 尼崎市出身。高校卒業後、父親が経営する「味楽園」に入社。6年間、修業したのち、某有名焼肉店に移り、濃厚な2年を過ごし、ふたたび「味楽園」へ。2015年、2代目の父親から、社長の座を譲り受ける。本人いわく、「継承ではなく、承継だ」という。心まで、受け継ぐからだ。
主な業態 「味楽園」
企業HP https://tabelog.com/hyogo/A2803/A280304/28001406/

アカギレとお客様との会話と。

今回は、幸運なことに、関西の食通は必ず知っているといっても過言ではない「味楽園」の3代目社長、康氏にお話を伺うことができたので、ご登場いただくことにする。
康氏が父親の背中を追いかけ、飲食に興味を抱き始めたのは小学生の頃。健気で明るい仕事ぶりは、お客様からも評判だったに違いない。「『3代目になるんか?』なんて声をかけていただいたりしまして。『ハイ』と返事をしますと、『そうか、そうか』と目を細めて笑ってくださるんです」。
康氏の話ぶりはとても丁寧だ。失礼だが、風貌とは、少し異なる。
「当時の私の仕事は、鉄板洗いがメインです。水にさわってばかりだから、アカギレもしょっちゅうでした」。いまでは「鉄板洗浄機」を採用しているらしいが、当時は、「冷たい水」に慣れるしかなかったそう。
「ただ、つらい一方で、お客様とのふれあいが楽しく、けっきょく、そっちが勝つんでしょうね。飲食という世界が好きになっていきます」。
そんな康氏を、父親でもある2代目店主は、どんな風にみていたんだろうか?
「私自身は、小学校の頃から『いつかは、父を継いで』と思っていたんですが、父の口から継承の話は一切でませんでした。私の思いを尊重してくれていたんだと思います」。
とはいえ、康氏はのちに父親に一喝されている。いったんアパレル業界に就職しようと打ち明けた時のこと。「『そっちに進んでもいいが、進めばもう、もうもどってくるなよ』って。少しくらいほかの会社もみたいというのが私の本音だったんですが、父親からそう言われて、ほかに進むという選択はなかったです」。これは、高校卒業時の話。つまり、康氏は、高校卒業後すぐに「味楽園」で本格的な修業を開始することになる。

「まずは、うちの流儀をたたき込む」が、父親の教育指針。

2代目や、3代目の場合、いったん、ほかの店で修行するのが定番だ。だが、「味楽園」の場合、少し様子が違っていたようだ。父親は「まずは、うちの流儀をたたき込む」と、そばから離さなかったという。「ほかに修業に行くのは、『うちのDNAをたたき込んでから』が父親の考え」と、康氏もいまでは同調する。
<実際、修業には行かれたんですか?>
「ええ、行かせてもらいました。ただ、6年経ったあとですから、基本は何でもできるようになっていました。でも、そこに意味があったとも思います」。
<どうして、でしょう?>
「右も左もわからない時に行っても、違いがわからないと思うんです。幸い、私の場合、味楽園で6年間、勉強させていただいたおかげで、違いも明確にわかり、その違いが、新たな知識にもなりました」。
<たしかに、そうですね。>
「経営者って判断しなければならないじゃないですか、どうすればいいか。店による違いを理解していることで、判断軸のひとつができたと思っています」。
ちなみに、他社での修業は2年。濃厚な時間を過ごし、3代目が修業の旅からもどってきたのは、康氏、26歳の時だった。

真摯に向き合えば、悪口も、教訓になる。

「親子3代、4代といらしてくださっているお客様がいます」と康氏は、目を細める。その表情からは、実直な性格がうかがい知れる。
「もう、半世紀以上ですから。なかには小さな頃の私を知っているお客様もいらっしゃいます。ありがたいことです。いえば、これが、うち、つまり『味楽園』の正体なんだと思います」。
かわらないこと。それがいちばん。しかし、いちばん難しいことでもある。
「いつの時代にも、お客様に愛されるということは、難しいことですね。素材もそうですし、スタッフもそうです」。たしかに、同じでありつづけられるわけはない。
「だから、一度だけ改革を急いだことがあるんです。修業からもどってきてから、すぐの頃です。今の時代はオシャレな店だ、と父親に言ったり、スタッフにも今までとは違う接客をお願いしたり、と」。
<うまくいかなかったんですか?>
「だめでしたね。それに気づかせてくれたのが、当時のアルバイトリーダーです。彼は、勇気をだして。私の悪口を書きなぐった何枚ものコピー用紙をもってきてきれたんです」。
「クーデターのようだった」という一方で、感謝の思いが、言葉のトーンから伝わってくる。「経営者にとって何が、大事か」。彼らがそれを教えてくれたからだろう。実際、康氏は、「人生でいちばんの教訓を得た」と言っている。
これだから、素直な人にはかなわない。

社長就任後、増収増益。労働環境も改善される一方だ。

「専務だった頃は、親父に言っていたんです。『たまにはゴルフでも行って来たらええがな』って。でも、社長になったら、親父といっしょのことやっています」。そう言って、今や社長にとなり、5年目となった康氏は、屈託なく笑う。
仕事ぶりは、父親とおなじ。スタッフより早く来て、洗浄機のスイッチを入れる。だれよりも遅く、店をあとにする。康氏が社長に就任し、4年。すべての年、増収増益。労働環境も改善される一方だ。
その話を〆に。
「私は半世紀以上、焼肉という食のジャンルに向き合ってきました。うちの店でも、昔から比べれば、ずいぶん働きやすい環境になっています。これは、父や私はもちろんですが、幹部たちがスタッフの声を聞きながら、それに真摯に対応してきた証だと思っています」。
<とはいえ、まだまだと思っておられるんですよね?>
「そうです。はたらき方改革では、まだまだアクセルを踏んでいきたいですね」。そういったあと、康氏は、「味楽園」の現状を教えてくれたのだが、それを聞いてこちらの目が丸くなった。

従業員ファーストで描く、飲食の未来図。

「味楽園」では正社員でも1日の労働時間が8時間以下に抑えられているのだという。それでいて、給料は、22歳で、30万円以上というから驚くしかない。チーフクラスになれば、1000万円プレイヤーになれなくもないらしい。
<めったにない好条件ですね?>というと、「私どもが頑張ることで、業界が少しでも良くなればと」という言葉が返ってきた。「焼肉業界の発展」を考えているから、の一言に違いない。そこがまたいい。
このインタビューは、2020年2月に多忙な康氏に時間をいただき行ったのだが、翌月には、厨房の大改装が予定されているとのことだった。なんでも「麺を調理している時も厨房の温度が上がらない空調にする」のだという。
斬新で、大胆。何より従業員ファーストの姿勢がうかがえるエピソードだ。
「私自身、こう私自身に言い聞かせています。味楽園が『働きやすさ』に取り組むことで、飲食業界全体が『働きやすく』なるんだ、と。つまり、飲食業界のいまからの指標づくりです」。
いまからの指標づくり。すでに業界のお手本には、充分になっているのだが、まだまだ追求するということなんだろう。今日もまたいい話を聞かせていただいた。

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