創業当時の社員は、伊藤忠時代に仕事を通じて知り合った人や起業してから出会った人です。こうした人の中には異業種の方もいらっしゃいました。もちろん食品業界や流通業界に詳しいメンバーもいましたから、私がノウハウを教えなくても『食堂楽』のサービスは展開できたんです。
ところが、間もなくすると社員に対して『数字』目標を追わせるようになっていました。35ヵ年計画の第1フェーズ後半は"上場企業をつくる"ですから、計画倒れにならないよう自身を追い込み、さらには社員をも追い込むといった状況だったのです。すべてを数値化させ、その数字だけを目標にさせてしまっていたのです。数字を作りだすために、仕事をこなしている状況でした。設立からの6年間は私も社員も数字を追い、起業当時の志はどこかへ吹っ飛んでしまっていました。
数字を追うのではなく、お客様を向きながら働き、お客様の感激と感動、喜びだけを考えて仕事をすべきだとある時目が覚めたのです。数値の話ばかりだった組織に6年間在籍してくれた社員には、心から申し訳ないと感じています。そんな自戒の念から、毎朝、自分の言葉でエバービジョンを今後どのような会社に成長させたいか、自分が今何を考えているかをきちんと言葉でも伝えようとしています。
エバービジョンの立ち上げから一緒にやってきた藤本が、10年来の夢だった米国留学を実現させたことが一番のきっかけとなっています。彼と出会った頃、彼は「会社を上場させ、大学院に留学する」という夢を持っていました。上場は果たせませんでしたが、自分の家を売って現金化し藤本の株式を引き受けて、留学資金を捻出しました。ためらうことなく家を売却し、その時「自分は何を目指したかったのだろうか」と改めて自分を振り返ったのです。
自分の首や社員の首を絞め、背伸びばかりしながら仕事をしていくのではなく、もっと正直に行こうという気持ちになり、その途端にスーッと肩肘の力が抜けていきました。
創業当時の私に戻ったと感じてくれていると思います。このような方向転換に皆が合わせようとしてくれたことに、とても感謝しています。ただ不思議な現象は起きています。数字を出さなくなると、お客様のサービス利用継続率が倍になったのです。特別な施策を打ち出したわけではないのですが…。社員がお客様の喜びや感激を昨日より1つでも多く実行しようという気持ちがあって、それを行動に移しているということです。以前より一歩でも二歩でも踏み込んだ仕事ができていて、気持ちに触れるサービスを求めていたお客様にきちんと伝わっている証拠ではないかと思うのです。
そう思います。実際お客様からご紹介も以前よりかなり増えてきています。。私は社員に対して発信することを続けていきたいですね。完全に反対方向に向いてしまったベクトルを180度方向転換させるのには時間がかかると思っていますから。
こうしたことを踏まえて、社員教育を充実させていきたいですね。本当にその人のことを考え、人生の成長を願うのなら、自分の思いはきちんと相手に伝えるべきではないかと感じ、最近は伝えるようになりましたね。だからこそ、その人の可能性を引き出せるような研修を導入し、社内の研修制度を整備していきたいのです。
誰しも誰かに見守られているという気持ちを持っています。だからこそ、成長を見守られているという幸福感で社員を満たし、それによってお客様に満足感を与えられるサービスを提供できたらと思います。
35ヵ年計画の第2フェーズ、25年については特に決めていませんが、社会に役立つためのサービスであることをやりたいと感じています。「信頼する」「社会に役立つ」「創る」「喜ばれる」。これらが私の最も大切にしている言葉です。私を育ててくれた社会に恩返しする意味でも、社会の役に立てるようなビジネスを手掛けなければと使命感を感じています。