初めての起業で大失敗!骨折までしてしまい‥

「2億円をあなたに任せます。経営を学んでください!」

これが22歳の私を飲食業界へといざなった言葉でした。マクドナルドの求人広告欄に書かれていた言葉です。偶然にも、この言葉と出会う前にマクドナルドの藤田田社長の本を読み、「自分も経営者になりたい。将来、経営について学びたい」と感化されていました。だからこの言葉に背中を押されてマクドナルドに入社したというわけです。

マクドナルドで学んだことはたくさんありますが、一番大きかったことは“飲食業は人の成長をリアルに感じることのできる仕事だ”ということです。何十人、何百人ものスタッフと接していると、若者の中には人と接するのが苦手という学生などもいたりします。でもそういう人が半年後には性格まで明るくなり、めきめき頭角を現したりするのです。

「人の能力を開発して伸ばしていける仕事」――それが飲食業の醍醐味であると学びました。

20代前半で経営の基礎を学ぶと、以前から経営者になりたかった私は、25歳の時にさっそく夢を実現させました。しかしこれが大失敗。人生最初にして最大の挫折を味わいました。私が最初に起業したビジネスは貿易業だったので、それまでの飲食経験もうまく生かせず、借金を抱えてしまったのです。29歳のことです。

さらにその後、運悪くスノーボードで骨折までしてしまいました。まさに“身も心もぼろぼろ”という状態でした。自由に身動きができない中、改めて自分の人生について真剣に考えました。起業時に「ぼろぼろになってもいい」と軽く考えていたら本当にそうなってしまった。だから「20代はぼろぼろでもいいけれど、30代は絶対に成功させよう!」とそこで気持ちを切り替えたのです。

誰かを喜ばせ、感謝させる。その対価がお金。

人生2度目の起業では「何をやりたいか」だけではなく、「何をやったらうまくいくか」もよく考え、33歳の時に「炭焼BAR くふ楽 本八幡店」を出店しました。1度目の起業で失敗を経験したことで、“どうなると失敗の可能性が高まるか”ということを少しでも理解できていたことは、逆に良かったと思います。

1度目の起業では金儲けを優先していました。しかし失敗して借金を返す生活を経験することで、経営は金儲けだけではないと知ることができました。人に「ありがとう」と喜んでもらったり、誰かの役に立つことで、その対価としてお金が支払われる-―それが世の中のビジネスの大前提になっている、ということを学ぶことができたのです。

そういった考えで、「くふ楽」や「福みみ」の業態を開発していきました。中でも当店では、お通し代(席料・サービス料)をいただいていないのが特徴のひとつになっています。居酒屋などでは、お通しは必ず付いてくるもので、たとえ食べたくなくても、払わないわけにはいかないのが現状です。

メニューの片隅に、小さい文字で「当店ではお通し代10%をいただいております」と申し訳なさそうに書かれていることもあります。でもこれでは、お客様と信頼関係を築くのは難しいと思っています。

当店でも以前は、お通し代だけで年間1億数千万円を獲得していました。しかし、一人の人間としてこのやり方を考えた時、いい気分にはなれませんでした。「自分がされて嫌なことを人にしまい」と考えを改め、当店では一切お通し代をいただかないで、店からのサービスとして一品を提供することにしたのです。もちろん、収益確保という点では、一時、社内から反対の声もありました。でもお通し代分をお客様に還元するという考え方をみんな理解してくれました。

店長は孤独との戦い。自分で自分に自信を持てるか。

飲食業は私にとって、時間を経つのも忘れるほど打ち込める仕事です。充実した人生を送ることのできる仕事です。当社ではそれをスタッフに伝えたいと考え、人財育成事業にも注力しております。“集めるより集まる企業”にしたいといつも考えております。2003年から人財育成のためのさまざまな制度を築き上げ、ようやく環境が整ってきたところです。

「店長は孤独との戦い」とよく言われます。特に逆境に立たされた時などに、人間は自分に妥協しやすいものです。大切なのは「誰も見ていないところで、どれだけやりきれるか」。常にもう一人の自分との戦いなのです。自分が自分に対して自信を持てるかどうかが大事なポイントになってきます。

自分に負けている店長というのは、日報が上がりにくくなったり、日報に書き込まれる文字が少なくなったりするものです。そして基本的なことですが、挨拶や清掃などの“凡事”がおろそかになるのです。だから当社ではスタッフに“凡事徹底”を強く呼びかけているのです。

今後も当社では、“記録よりも記憶に残る企業”でありたいと考えています。数字合わせの経営は、ある意味、とても簡単です。それよりもスタッフの人間力を高めることの方が難しいし、社会的にも、人間的にも、価値のあることだと考えています。

だから当社で採用しているスタッフは、熱さよりも人間的な温かさをもった人材。一人一人が自信と笑顔で輝いている日本にしていきたいと思っています。