社内独立制度により、入社5年で独立

大学卒業後、佐々木店長は某有名飲食チェーンに就職した。当時、彼はワタミ(株)の渡邉社長のサクセスストーリーを描いた「青年社長」(高杉良・著)を読んでワタミに関心を抱いていたのだが、あるとき彼の働いていた店に渡邉社長が来店したこと、そしてワタミに独立制度があることを知ったのをきっかけに、ワタミに入社した。

彼は和民の店長とエリアマネジャー(12店統括)を経験し、入社5年後、わたみん家上野浅草口店で独立した。月商を1000万円から1200万円へと向上させ、わたみん家・最優秀賞(ワタデミー賞)にも輝いている。彼はまた、(有)KYOTAファクトリーの社長でもある。

佐々木店長は、店長経験1年以上、内部監査高得点、資本金300万円という条件を満たして、ワタミの店舗運営権利を取得した。現在、わたみん家125店のうち1/3がFCオーナーである。また資金に余裕がある場合、自分の店をオープンさせるコースも用意されている。

月商1200万円は、わたみん家でもトップクラス。佐々木店長は自らの収入については多くを語らないが、サラリーマン時代の比ではないようだ。なお、来年には故郷の仙台で2号店を出す予定とのこと。すばらしい!



どんなに悪天候でも、いつも満席!

わたみん家は低価格の居酒屋で、この店は上野浅草口駅前ビルの最上階にある。同じビル内には同グループの坐・和民や和民市場も入っており、競合の激しい立地だ。

メニュー3本柱は炭火やきとり79円、自家製おでん50円、大阪風串揚79円で、客単価は2300円。「仲間が楽しく働けて、お客様に楽しんでいただければいい。売上は気にしたことがありません」と笑顔で語る佐々木店長。売上なんぞと言いつつも1年中満席で、月商を1000万から1200万に伸ばし、前年比を毎年クリアさせている。名物店長といわれる秘密は、次のような点にある。

1.ちょっとしたスペースにもテーブル
階段にもウェイティング空間にも、2名テーブルをセット。待てないお客様はここで飲食を始める。「もったいないスペースですから」というのがその理由。もちろんメインテーブルが空き次第、中へご案内する。

2.季節のディスプレイ
桜、海、落葉、クリスマスなど、店内は四季折々の風情。季節感たっぷりのお店だ。

3.常連客の写真がいっぱい
入口の掲示板やカウンターの前など、店内には常連客の顔写真がズラリ。(ロイヤルカスタマーが売上をつくる!)

4.常連客のボトルキープ、80本
お客様の名前の横には「体に気をつけてね」「ゴルフ行き過ぎ注意」等の店長のコメントいろいろ。常連客の友人を含めて300人もの名前やメニューの好みを把握。和民時代からのお客様も来店してくださる。(うれしいね!)

5.お客様の記念日を大切に
お客様の誕生日だとわかったら、すぐにコンビニでケーキを買ってくる。それを生クリームやフルーツでデコレーションし、ハッピーバースデーの歌とともにプレゼント。写真を撮り、スタッフ全員でお祝いだ。結婚記念日も同様。最近の例だが、ある常連客が結婚記念日に北海道から東京旅行に来た友人夫妻を連れて来店。ケーキ、結婚行進曲、写真でお祝いして喜ばれ、さらに後日掲示板に貼られた写真を見たその常連客が、携帯カメラでそれを写して友人にメール送信。2度喜ばれたそうだ。(きっとまた来てくれるね)

6.呼び込み名人が満席にする
毎日夕方5時〜7時、満席になるまで駅前で呼び込みをするスタッフがいる。通行人の目の動きから居酒屋を探しているのを察知するや、大きく手を振って「お客さ〜ん」と叫びながら走リ寄る。若い人には「安くてめちゃめちゃうまくてもう大変。来ないと損!」とPR。年輩の人には「いかがでしょうか、メニューだけでもご覧ください」と丁寧に対応。このTPOがなかなかのものだ。夜10時〜12時に店長が2回目の呼び込みをする。空席が出始める時間帯をフル回転させるため、「1時間でもどうぞ」と誘うのだ。他店ではあまりやっていないという。1000円程度のお客様もいるが、毎日行うと大きい金額になる。

この店を任されて以来、満席にならない日はない。雨の日も台風の日も、呼び込み名人がお客様を連れてくる。「ワールドカップの日本戦の日だけはダメでした」は、ご愛嬌だ。



楽しく働けるからP/Aが集まる、定着する

佐々木店長は「どうすれば社員やP/Aが楽しみながら仕事ができるか、本気になれるか、そのことばかり考えています」と語る。

3ヶ月に1回、P/Aとの契約更新時にカウンセリグを実施し、現在の評価や優れている点、直してほしい点などを伝えるとともに、店や店長に対する不満も自由に述べてもらう。店長が悪い場合は素直に謝り、改善を図っている。(なかなかできないことだね)

調子の悪そうなP/Aがいれば、すぐに面談してアドバイスしたり励ましたりする。3〜4時間勤務のP/Aにも10分程度の休憩を認めている。リフレッシュして、また笑顔でお客様に接してほしいからだ。「従業員みんなのことが大好き」と佐々木店長。「お店やお客様のために本当によくやってくれている。大切な仲間です」(さすが名物店長!)

P/Aの誕生日は基本的に休日とするが、やむをえず出勤してもらった場合は、お客様と同じようにケーキを用意し、お客様も参加してバースデーを祝う。この店には従業員もお客様もない。全員が家族なのだ。

P/Aの定着率はバツグンだ。卒業以外の理由で辞めた人はゼロ。採用については、ほとんどP/AがP/Aをスカウトしてくるという。アルバイト同士のネットワークがあり、評判の良い人が今の店を辞めるという情報が入ると、それがすぐに佐々木店長に伝えられ、本人とコンタクトをとって「うちなら絶対に楽しく働けるよ。楽しくなかったらすぐ辞めてもいいよ」と店長自ら勧誘・説得するのだ。



夢は仙台でわたみん家を展開すること

最近のエピソードを2つ。転勤で大阪に戻る常連客の送別会が行われたのだが、佐々木店長はユニークなコスプレで登場し、そのコスチュームをプレゼントした。その常連客は感動し、泣きながら「店長、また来るよ」と言ってくれた。その彼女は東京在住で、「出張で来月来るよ」などとこまめに教えてくれるそうだ。また、店長の大ファンだという近所のおじいちゃんからは、孫が大型のベーカリーカフェを開くので店長になってほしいとスカウトされた。独立していることをご存知なかったのだ。感動のエピソードが絶えない店長である。

「50円でおでんを、79円でやきとりや串揚を提供できるのは、ワタミグループのマーチャンダイジングのおかげ。会社に感謝しています」としみじみ語る佐々木店長。目標は故郷の仙台でわたみん家を5店舗オープンすることだ。「こんなに安くておいしくてスタッフがイキイキしている店があったんだと、仙台の人をびっくりさせたい。これまでの居酒屋とは全く違う、度肝を抜くような店を創りたいですね」と目を輝かせる。

わたみん家に賭ける佐々木店長の情熱と、愛情あふれるリーダーシップに感激した。名物店長の名声は本物だった! ただし佐々木店長自身は、これからは名物社員のいる名物店として注目を集めたいと思っている。人材は確実に育ちつつある。

今回の取材で、ジャック・ウェルチ(GEの元社長)のリーダーシップを思い出した。「リーダーは、あらゆる機会を捉えてチームのメンバーの働きをコーチし、評価し、自信を持たせる。そして派手にお祝いをする」

リーダーとは、あふれる愛情のことなのだと再確認した。ありがとう、佐々木店長。仙台での5店舗はもう見えているよ。