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売上好調、3つの要因

 月800万円を売り上げる繁盛店だが、敷居は高くない。ランチは1000円、ディナーでも1800円程度とリーズナブルで、気軽に利用できるのが魅力だ。繁盛の要因をお聞きした。
1.看板メニューの評価が高いダッカルビ(950円)…日本の麹味噌とコチジャンや数種類の野菜をブレンドした特製味噌で調味。肉はプリプリしておいしく、ボリュームも満点。
チヂミ(880円)…外はサクサク、中はモチモチの食感。厚焼きで食べごたえは十分。
サムゲタン(2000円)…本場の味にこだわった、ひなどりの薬膳煮込み。滋養成分たっぷりのスープが体を芯から温め、疲れを癒してくれる。
2.常連客が多く、遠方からも来店
客層はファミリーや主婦グループなど幅広い世代に及ぶ。客層に応じて辛味やニンニク抜きの対応もできる。地域の常連客も多いが、評判を聞きつけて大阪や京都、滋賀県からも来店する。
3.チームワーク&空気感が良い
スタッフは元気で明るく、チームワーク抜群だ。定着率は90%以上。その空気感の良さがお客様にも伝わる。60代・70代のスタッフもいる。なんと原付バイクで通勤して洗い場で週5日働く、誰よりも元気いっぱいの83歳のパートさんも! お茶とお花を教えている先生でもあり、みんなの頼もしい相談役になっている。(シルバー人材の活躍、すごいですね!)

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「命をつないでくれてありがとう」

 福茂千を訪れるお客様にはそれぞれの背景があり、一人ひとりがここでしか味わえない、かけがえのない時間を過ごしている。そんなエピソードを二つご紹介しよう。
 一つは、摂食障害(拒食症)のある20代の女性の話。か細い体のこの女性は体重が三十数キロしかなく、体力が失われる一方だった。唯一食べることができたのが、この店のサムゲタン。家族で何度も来店し、個室で食事を重ねるうちに少しずつ食べる量が増え、元気になっていったそうだ。ご両親からもたいへん感謝されたという。
 もう一つは、末期ガンの70代男性の話。余命数カ月とのことで、この方も食事をとるのが難しくなっていたが、やはりこの店の料理だけは食べることができて、何度も通ってくださった。「命をつないでいただきました」というご本人の言葉が、店長はとても嬉しかったそうだ。
 その後来店が途絶えて心配に思っていたところ、ある日ご家族が訪れた。喪服姿だった。その方のお葬式の日、わずかながら命をつないだ食事へのお礼を述べるため、ご家族はわざわざ店に立ち寄ったのだ。スタッフ一同、驚きのあまり言葉が出なかった。悲しい知らせと同時に感謝の気持ちを伝えられて、自分たちの店の役割というものを、みんなでしみじみと噛みしめた。
 飲食店にはいろいろなドラマがある。お客様の健康に深く関わることもあれば、命の尊さに遭遇することもある。飲食店で働く人たちは、すばらしい使命を担っているのだ。

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店舗運営の留意点

 店舗を運営するにあたり、谷川統括店長と藤原マネジャーが気をつけていることを伺った。
Q…料理の量・盛り付け・食材の品質・提供時間には特に気を配っており、価値ある商品をお届けできているかどうか、キッチン・デシャップ・ホールの全スタッフでチェックしている。また、ダッカルビ鍋と他のメニューとの提供時間のバランス(同時同卓)にも配慮している。
S…当たり前のことを徹底して行うようスタッフ教育している。
@いつも変わらぬ笑顔と、気持ちのいい挨拶を心がける。
A明るく「ハイ」と、心を込めて返事する。
Bお客様の気持ちを察し、それに応えられるよう常に考えながら接客する。
C店内をきれいに磨き上げる。
D所作は常に美しくていねいに。
E「ありがとうございました」に心を込める。
C…清掃箇所を分担し、各自が責任を持ってクレンリネスに臨んでいる。20代から80代までのスタッフが働いているので、幅広い目線で清掃にあたることができる。

従業員は家族!

 前述したように、従業員の定着率は9割を超える。卒業以外の理由で学生が店を辞めることはほとんどない。卒業してからも家族と一緒に食事しにきてくれる。このような絆を生むための、スタッフとのコミュニケーションについてお聞きした。
@定期的に食事会・親睦会を実施している。(大阪のよしもと劇場や、コンサートなどにみんなで行くこともある)
A毎日全員に声がけし、面談も毎月行う。
B小さなことでも、その時その場でほめる。
Cベテラン主婦パートを頼りにし、高く評価する。
 驚いたことに、お母さん・息子さん・娘さんの親子3人が、福茂千3店舗で働いているケースもあるという。一緒に来て、一緒に帰るそうだ。(すばらしいですね!)
 代表者である谷川女将は、いつも主婦目線でスタッフを気遣っている。主婦パートには「子どもさんの具合が悪いときは休んでください」と言い、10時〜11時の掃除の時間だけ働いてもらうなどの融通もする。学生には「テスト期間や夏休みは、1カ月休んでもいいよ」と言う。家族のようなあたたかさで、全員と接しているのだ。

 今後の夢について、谷川統括店長にお尋ねした。「韓国料理なら福茂千と、多くの人に言ってもらえる店にすること。そして、心のバリアフリーを実感できるお店をつくることです」との答えである。
 ありがう、谷川統括店長と藤原マネジャー。これからも、奈良になくてはならない“地域一番の店”をつくり続けてください。