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潮風の一本道(創業者うめさんの創業精神)

 魚の行商から商いをスタートさせたうめさんの、創業の精神を紹介しよう。

魚を買いに来たお客さんに魚を食べたいという人がおった。
大将が刺身を切って出した。
焼き魚、蟹を茹でて出した。望む人には、飯をよそって出した。
お酒を飲みたいという人に一升瓶で好きなだけ飲んでもらった。
「人に喜んでもらえることをせにゃいかん。」地元の衆に好かれんといかん。
事情を一番知っとるもんがまるはをええって言ってくれんといかん。
「蝋燭はわが身を削ってまわりを照らす」
幼いころに母から教わった大切な言葉だ。
戦後は大変な時代だったから、たくさんの人が助けてくださった。
だから、わしは恩返しだと思っとる。新鮮で美味しい魚を食べて、お酒を飲んで。
眠くなったら泊まってくださればええ。そして気に入ってもらえたら、
また来てくださればええ。「今日も、感謝感謝で日が暮れる」


 今月は、年商12億円、従業員140人の店をマネジメントする、管理本部本部長であり支配人でもある小栗暢史支配人にお話を伺った。

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月商1億円、超繁盛の4要因

 管理本部長として店のことを全てわかっていたいと自ら社長に申し出て、支配人に抜擢されたという小栗支配人。まるは食堂では、フロントは管理本部の直轄である。
1.圧倒的なブランド力
 前述したように、知多巡りの定番とされるほどの強いブランド力がある。看板メニューは、@エビフライコース2300円:刺身、付出し、エビフライ2匹、煮魚、ご飯、味噌汁、A2000円コース:@に対しエビフライが1匹、B豊浜コース2700円:@に対し、季節の焼物や焼き魚をプラス。エビフライは太くて大きいジャンボサイズ。名古屋めしの一つに挙げられるエビフライは、このまるは食堂が原点だといわれている。
 小栗支配人はいつも朝礼で「まるはらしさを発揮しよう」と語っている。まるはらしさとは、お客様の要望に対し、できる限りのことを尽くして応えるということだ。圧倒的なブランド力はそこから生まれる。
2.従業員の愛社精神の高さ
 豊浜本店の従業員(社員40人、P/A100人)のロイヤリティは極めて高い。まるはが大好きな従業員ばかりなのだ。私も食事をした際、従業員の笑顔や活気、スピーディな動きに感心させられた。案内の仲居さんが笑顔で「みかんでもどうぞ」とサービスしてくれるような親しみやすさが、地方ではとても重要である。
 取材中、小栗支配人は何度も「自慢できる従業員がいっぱい」と語った。愛情たっぷりの支配人のもとで、従業員の愛社精神が磨かれるのだ。
3.活魚料理のおいしさ
 魚介の鮮度にはこだわりがある。豊浜漁港市場に近いだけでなく、大型水槽で新鮮な魚を保管している。「早い」「安い」「新鮮」「ボリューム」が自慢だ。コースメニューは2000円〜6000円まであり、団体客の予約も多い。
4.仲居さんの接客力
 支配人になった当初は、仲居さんの力を引き出しきれなかったという。仲居さんが何か問題点に気付いたとしても、「上司に言ったってムダ、きっと動いてくれないだろう」という雰囲気が漂っていて、意思の疎通がスムーズではなかった。組織が大きいせいもあったのだろう。そこで小栗支配人は、機器の故障や雨漏りなど、仲居さんから出た改善提案に対し、どんなことでもすみやかに動いて直すことを徹底した。
 まもなく小栗支配人は仕事が早いという印象が定着し、信頼されるようになり、店の雰囲気がよくなって、接客力もどんどん向上していったそうだ。
 仲居さんは50人。お客様を楽しませる会話を身に付けるよう指導している。商品説明や楽しい会話によって、料理のおいしさが増すからだ。また「知り合いが来店したらプラスαのサービスをしてもいい」ことにしており、仲居さんたちも気持ちよく仕事ができる。

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支配人の“ちょっといい話”

1.お客様の靴が紛失
 支配人がフロント責任者時代の話。クリスマスに60代のご夫婦が来店し、2階の座敷で食事をされたのだが、お帰りの際、奥様の靴がなくなっていたのだ。高価なものではないけれど、大切な人からいただいた靴だったため、大きなショックを受けてしまった。
 聞けば、その方は末期がんで余命3カ月。最後の思い出に、まるは食堂で食事がしたかったとのこと。いてもたってもいられなくなった小栗支配人は、一緒に靴屋へ行き、好きな靴を選んでもらって、「私からのクリスマスプレゼントです」と、自腹でプレゼントした。その優しい気持ちに、お客様は涙を流して喜んでくださったという。
2.仲居主任の抵抗
 性格の強さから仲居のドンと呼ばれていた50代の仲居主任が、管理本部へ異動することになった。小栗支配人からそれを告げられたとき、イヤだと泣いて抵抗したそうだ。フロントや経理の仕事などやりたくなかったからである。泣く泣く管理本部にやってきたが、気分はひどく落ち込んでいたようだ。小栗支配人はその人のことを気にかけ、管理本部の仕事(総務、人事、フロント業務)をじっくりていねいに教えていった。
 そして4年経過し、今度は仲居長(統括)として店に戻ってきた。そのとき支配人に対し、「4年間ありがとうございました。管理本部の仕事は大変でしたが、仕事の幅が広がり、成長できました。本当に勉強になりました」と感謝の言葉を繰り返したという。現在、主任よりも上のランクである仲居長にふさわしい落ち着いた態度で、常にすべての仲居さんのことを考えながら仕事をしている。
 仲居長は社内アンケートにこう答えているという。「私がこの仕事をやっていけるのは、今の支配人のおかげです」と。
3.やんちゃな17歳(女性アルバイト)
 高校を中退後、バイト先で問題行動を起こした女の子のことを、「まるはさんで何とかしてほしい」と依頼された小栗支配人。笑顔は出るし、とりあえず接客もできる。「何でも一生懸命やれば、みんなからかわいがられるよ」と彼女にアドバイスし、少しでもいいところを見つけてはほめて、やる気を促した。注意するときも、ほめてからにした。
 この店には筒を通して2階から1階に伝票を落とす仕組みがあるのだが、ある日その筒に伝票が詰まり、注文が通らずに料理提供が滞る事態が起きた。他の仲居さんたちが慌てふためく中、彼女は2階の伝票を猛スピードで書き直し、走って調理場へ持っていったのである。この判断と行動の早さに支配人はびっくりし、「お前はスゴい。お前のおかげで料理がスムーズに提供できた!」と大いにほめた。そして今でもことあるごとにこの出来事を引き合いに出して、彼女をほめている。
 それから1年半。彼女の仕事ぶりはぐんと上達した。「将来、社員にしたい。彼女には期待しています」と支配人は語る。(まるは食堂でアルバイトすることで、彼女の人生が変わりはじめた。いい仕事してますね、支配人)

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“絶対に怒らない”支配人

 小栗支配人は従業員140人全員の誕生月に、感謝メッセージを手書きした誕生日カードを渡している。140人すべての性格や仕事ぶりがわかっていないと、このようなメッセージは書けない。「管理本部長なので、他の店舗の従業員のこともわかっています」とサラリと言う小栗支配人である。(なんと…!)
 ほめると叱るのバランスを伺うと、「私は絶対に叱らないと決めています」との返答。問題があるときは責任者を指導するそうだ。
 女性が多い職場ならではの人間関係の難しさもある。今日も年輩の仲居さんから「小栗君、ちょっと聞いてよ」と話しかけられた。だから毎日話を聞く。時には「ごめんね」などと言いながら聞き続ける。話を聞いてもらえて、みんな安心する。

 今後の目標は「他のまるは食堂もいいけど、やっぱり本店はすごいとお客様から言われること」、そして従業員に「本店で働くのを誇りに思ってもらえること」。自信をもって働いてほしいと、日々語り続けているそうだ。「今月から140人全員と面談します。時給も上げたいですね。また、支配人杯を創設して表彰も実施していきます」とのこと。
 「自慢したい従業員がいっぱい」という言葉に感動させられた取材だった。小栗支配人、全国の店長にとって参考になるいいお話をありがとうございました。