画像
売上好調、3つの要因

 渡辺店長の店舗目標は、「お客様にも従業員にも居心地のよい店づくり」だ。これを追求することで、売上を順調に伸ばしている。

1.リピート率80%の商品力
 南国酒家は創業から50年変わらぬ伝統の味を確立しており、商品力に自信を持っている。食材には徹底的にこだわる。中国料理と相性のよい国産食材を掘り起こし、自分たちの目と舌で確かめて料理に仕立てる活動が評価され、優良外食産業 農林水産大臣賞も受賞。そうやって掘り起こした干しあわびや伊勢海老をブランド化し、普及にも努めている。祖父から孫まで3世代に支持される味だけに、少しでも料理の質が変わると客数が落ちてしまう。リピート率80%は信頼の証なのだ。

2.居心地のよい接客サービス
 横浜店は常連客が多い。お客様の好きなメニューや苦手な食材、食物アレルギーにも留意している。店長は500人以上の常連客を認識。100人以上を認識しているベテランパートも2人いる。お客様の好きな席を覚えていて、言われなくてもご案内できたり、体の不自由なお客様がウェイティングしていれば個室にご案内したりと、サービスがきめ細かい。渡辺店長は常にお客様の表情と従業員の顔や立ち位置確認しながらオペレーションを行う。スタッフに対しても「想像力を働かせてお客様の立場になって考え、先を読んだサービスをしよう」といつも指導している。

3.スタッフを居心地よくさせる努力
 渡辺店長は横浜店から原宿店に異動した後、店長として横浜店に戻ってきた。戻った時この店は、スタッフの離職率が高いという問題点を抱えていた。人間関係が主な原因だったという。そこで渡辺店長は、全スタッフとしっかり向き合うことで問題を解決していった。公平さを保ちつつ、一人ひとりを特別扱いしたのである。「公平」とは、全員に対し公平に声をかけること。「特別扱い」とは、一人ひとりに関心を持ち、なかなか表には出にくい点も含めて個々の良さを見つけ、引き出すこと。この両輪でスタッフが気持ちよく働けるようにし、全員のやる気を高めていったのだ。
 スタッフを居心地よくさせ、やる気を促すポイントを、渡辺店長は4つ挙げている。@公平性(特に女性は公平さを重視する) Aリスペクト(スタッフの強みを認め、敬う)
B悪口を言わない(店長も、スタッフ同士も) C積極的に会話する(気軽に話しかける)
 取材中、スタッフから声がかかるたびに渡辺店長は「どうした?」と言って席を立ち、真剣に対応していた。従業員を大切にする姿勢に、ささやかな感動を覚えた。

画像
うれしかった出来事(ちょっといい話)

その1.横浜店に戻った時、70代の女性客が渡辺店長に「ずっとあなたにお会いしたかったのよ。主人が亡くなったの。あの人はこの店が大好きだった。また来るわね」と涙を流しながら語ってくれた。こんなに歓迎されているのだと思うと、胸がいっぱいになった。
その2.東日本大震災はもちろん、その後の地震の際にも、店長は全テーブルを回って話しかけている。先日も地震があったが、店長は「ご気分は悪くないですか? テーブルやイスに不具合はありませんか? このビルは安心ですから、ごゆっくりなさってください」と、全てのお客様に声がけした。翌日、本社に次のメールが入った。「昨日の地震の時、店長さんが落ち着かせてくれて本当に安心しました。すばらしい店長ですね!」
その3.渡辺店長の副店長時代に採用されたアルバイトの話。当時は上下関係が厳しく、わずか1カ月で辞めたいという相談を受けた。「続けたら学べることも楽しいこともいっぱいあるよ」と説得して留まらせ、店長に昇進してからも大切に育ててきた。こうしてそのアルバイトは4年間勤め上げ、この3月に晴れて卒業した。「南国酒家で働くことができてよかったと心から思っています!」と、嬉しい言葉を店長に残して。

画像
マイナスをプラスに変えるクレーム対応

 すばらしいサービスを提供する老舗でも、クレームが入ることがある。昨年末、年輩の女性からお帰りの際に「料理がぬるかった」とお叱りを受けた。店長は「大変申し訳ございません。もしお料理に問題がございましたら、すぐ私にお声がけください。責任を持ってすみやかにお取り替えいたします」と、名刺を渡して丁寧に謝罪した。
 翌日の昼、そのお客様から電話が入った。以下は、そのときのやりとりである。
お客様「昨日は友達を連れて行ったのに残念。本社に連絡しようと思ったけど、名刺をいただいたからあなたとお話しすることにしました。あなたは昨日どう思ったの?」
店長「お電話ありがとうございます。私は今感動しております。なぜなら、私どもが改善すべき点をわざわざ教えていただけたからです。私どもの店のためになると想ってお言葉をいただけたことに感動しています」
お客様「もちろん、また伺いたいから言っているのよ」
店長「お電話に感謝すると同時に、お客様のご期待を裏切ったことへの悔やしさもあります。これから全ての料理に細心の注意を払い、全力でおもてなしいたします」
お客様「わかったわ。また行くから、よろしくお願いね」
店長「ありがとうございます。ご来店の折りにはぜひお声がけくださいませ」
 マイナスをプラスに変える、すばらしい対応だと思う。

 いい話をたくさんありがとう、渡辺店長! あなたの誠実で真摯な対応と素晴らしい人間力に感動しました。