カシータの伝説のサービス

まずは、カシータの感動的なサービスにまつわる2つのエピソードをご紹介しよう。

ある日、オーナーは常連の男性客からこんな相談を受けた。そのお客様には意中の女性がいて、プロポーズを考えている。彼女は新潟出身で、今アメリカのサンディエゴに住んでいる。近々帰国予定があり、カシータで食事をするつもりだが、その折に彼女の心をつかむ素敵な演出をしたいというのだ。

そこで柳沼店長は、彼女の故郷の雪でテラスを銀世界にしようと提案。前日の夜にスタッフ2人とともにトラックをレンタルして新潟へ向かった。スコップで雪を積み、東京へとんぼ返りし、テラスに雪を敷き詰め終えたのは朝の8時だった。一旦帰宅したものの晴天のため雪が心配でならず、10時に店に戻ったところ、他の2人も同じ思いだったようで、すでに待機していたという。

そしていよいよカップルが来店。テラス席の窓辺には雪だるまが置かれていて、彼女はハッとそれに気づいた。オーナーは「あなたの故郷の雪ですよ」と一言。彼女は言葉もないほど驚き、目にはすでにいっぱいの涙を浮かべていた。なんと心憎い演出だろう。温かいおもてなしだろう。なんて素敵なプロポーズなんだろう!

トラックをレンタルして新潟まで往復し、3人の人間が一晩中働くことをお金に換算したら、このようなサービスはできない。幸せのお手伝いをし、最高の瞬間に立ち会える喜びがあるからこそ、感動のサービスが生まれるのだ。もちろんこのカップルが生涯顧客となり、家族の記念日にいつもカシータを利用してくださるようになれば、結果的にお店の発展につながることになる。

もう一つは最近のエピソードで、主役は新婚カップルだ。予約の際に何かのお祝いかお尋ねしたところ、諸事情で挙式できなかったが、結婚の記念に2人で素敵なひとときを過ごしたいとのこと。
さっそくその日のミーティングで「僕らで結婚式を演出しよう。みんなで結婚の証人になろう」と決めた。こうしてテラスにチャペルがつくられた。

当日、カップルの来店と同時にその日の全スタッフ30人が並び、フラワーシャワーでお迎えした。最初は何が起きているのかわからずに呆然としていた2人だが、店長を立会人としてオリジナルの結婚証明書にサインをする頃には、もうあふれる涙を止めることができなくなっていた。もちろん店長も泣いた。
スタッフ全員が思いっきり泣いた。そして、この話を聞きながら私も泣いた。こんなにステキな結婚式があるだろうか!

だが柳沼店長は「サプライズレストランで勝負したいわけではありません。お客様の事情や人柄に引きつけられるからこそ、私たちも想いをふくらませることができるんです」と語る。お金はいくらでも出すから何かびっくりすることをやってくれ、と言われてやるのではない。お客様とのコミュニケーションの深さからサプライズが生まれるのだ。



3年前の会話を覚えている理由

冒頭でも述べたように、柳沼店長は3年前の私との会話を覚えていた。理由を伺うと、「お客様との会話の内容を毎日手帳にメモしているから」だという。3年前のメモを読み直して、いろいろ思い出したそうだ。

メモの量は半端ではない。2日でメモ帳を1冊使ってしまうほどだ。グランドオープンからの6年間で、膨大なメモが積み上げられた。スタッフたちは柳沼店長の誕生日に、一箱分のメモ帳をど〜んとプレゼントしてくれたそうだ(笑)。

1日150人ものお客様全員と会話し、手帳だけでなくいただいた名刺の裏にも必ずお客様の背景や情報をメモし、仕事が終わってから毎日20分間、それを見ながら復習する。キーワードを見つけて要点を記憶し、就寝前にもおさらいをする徹底ぶりだ。「料理だけではなく心も満たされるレストランにするためには、毎日コツコツと努力することが大切。
サービスはその積み重ねなんです」と柳沼店長。これまでにお客様と交換した名刺の数は実に10,000枚以上。顔を覚えているお客様は相当数に上る。伝説のサービスを生む、まさに伝説の店長だ! 本連載は85回に及ぶが、今回初めて店長を形容するのに「伝説」という言葉を用いた。



お客様は背中で合図を出している

柳沼店長はスタッフ教育の際、お客様の背景を汲み取ってサービスをするよう指導している。例えばビジネスのお客様なら、スムーズに食事をお出しするなど、気の利くサービスに努める。また2人の世界に入っているカップルの場合は、やや控えめに見守るようなサービスを心がける。食事そのものを楽しむ人、サービス業界の人など、お客様は様々だ。それぞれの背景に配慮した、ホスピタリティあふれるサービスが大切。

私は友人と2人で訪れたのだが、夢中で話をしている間は、スタッフはそっと見守ってくれていたようだ。友人がトイレに立って私1人になった時、柳沼店長がやってきて例の3年前の話をしたのである。絶妙のタイミングだった。

カシータにはこうした絶妙のサービスがいっぱいある。食事中、隣の椅子に置いてあった上着のポケットから携帯電話を取り出そうとして手を伸ばした瞬間、スタッフが笑顔でサッと上着を取りやすい位置に向けてくれた。
ほんの1〜2秒のできごとで、私はスタッフがそばにいたことさえ気づいていなかった。

「お客様は背中で合図を出しています。肩の動きを見れば全てわかります。肩が少しでも動いたら、お客様のところへ行く必要があるんです」と柳沼店長は言う。ワインを飲み干すとき、荷物を取ろうとするとき、上着を脱ごうとするとき、いずれも肩に動きが生ずる。慣れてくると記号のようにも見えてくるという。これがわからないと、サービスの先回りはできない。



オープン前のミーティングは3時間半

奇跡のレストラン「カシータ」の店長方針は「一人のヒーローではなく、チームでお客様をお迎えすること」だ。営業時間は24:00ラストインだが、お客様がお帰りになるまでエンドレスで営業する。

新人(全国から応募がある)はホールマネジャーやチーフコンシェルジュがマンツーマンで指導にあたり、理念、サービスのポイント、商品知識などを徹底教育する。ゲストの前でサービスできるようになるまで、半年以上かかるそうだ。それまではバッシングやセッティング、ウェイターの補佐、サービスステーションまでの配膳などを行う。

カシータには、テーブルのセットを作るリセッターというスタッフが3人もいる。テラス席のサプライズの演出をするのも、このリセッターだ。またウェイターは、6つのテーブルに対して2人が配置される。十分な体制といえる。

オープン前には、全体ミーティングなど、複数のミーティングが3時間半かけて行われる。
本日のお客様の背景とそれに合ったサービスについても、このミーティングで打ち合わせする。

カシータでは女性同士のお客様は男性スタッフ、男性の場合は女性スタッフがおもてなしするのだが、これはお客様からの受けのよさというよりも、もてなす側がお客様の「パートナー」のような気持ちになって心を尽くせるようにという考えからだ。

柳沼店長は、最近スタッフが育ってきたのが何よりもうれしいと言う。目を見れば次に何をすべきかがわかるようになった。勉強会も自発的・積極的にやっている。最強ではないが、最高になりつつある。

柳沼店長自身の夢は、大好きな現場で究極のホスピタリティを追求し、スタッフの人生の喜びとお客様の幸せを同時に実現できるレストランを創り上げることだ。
 愛と感動のレストラン「カシータ」が日本に存在することに拍手を贈りたい。ありがとうカシータ、柳沼General Manager!