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地方都市松坂で月商3000万円、その3要因

1.「A5ランク松坂牛」お値打ち価格で炭火焼き
 大田店長の店長方針は「おいしいお肉で感動を与える店」だ。「おいしかった、また来ます」というお客様が行列をつくる店である。最上級A5ランクの肉を贅沢にも焼肉に用いるのに加え、炭火焼きと創業以来引き継いできた自家製の味噌ダレもその極上のおいしさを引き立てている。
 地元のお客様が多いだけでなく、ここ数年はインバウンド(香港・台湾・中国)からのお客様が増加。伊勢神宮参拝とのセットで一升びんを利用するお客様も増え続けている。

2.家族のようにあたたかい接客
 本店の正社員は12人。正社員の比率が高く、10年以上勤める女性社員も多くてサービスの質が高い。地元に愛される家族的な店として周知され、スタッフは常に家族に対するようなあたたかい接客を心がけている。店長がいつもスタッフにイメージさせるのも「自分の家族や親族が来たとき、どんなふうに迎えるのか」だ。
 炭火の火加減を見るのは難しいので、初めてのお客様には焼き方をていねいに説明する。スタッフが焼いてさしあげることもある。これも家族のような接客の一つだ。
 北海道、東京、大阪、名古屋など、県外からも定期的に訪れる常連客がいる。帰省のたびに立ち寄るお客様も。店長は常連客を300人以上認識し、10年以上勤務する女性社員たちにはそれぞれ常連客がついている。その社員が接客することで満足する常連客がとても多く、毎日店内のあちこちのテーブルでアットホームな会話が始まるのだ。

3.店の雰囲気とチームワーク抜群
 「スタッフのチームワークの良さが売上好調の大きな要員の一つです」と大田店長は言う。人間関係が良好で、みんな楽しく明るく働いている。それが自然にお客様に伝わり、お客様にとっても心地よい店になっているのだ。
 大田店長はスタッフ全員に公平に接するよう努めている。特に女性は公平性を重んじることが多い。私のセミナーでも「女性のやる気の高め方」を解説しているのだが、ここでそのポイントを紹介しよう。
@店長はスタッフを個人名で呼び、個人として責任を持って仕事に取り組んでもらう。
A常に積極的に声をかけ、気さくな雰囲気で会話する。
Bベテランを高く評価し、頼りにしていることを示す。
C常にほめることで女性一人ひとりのパワーを引き出す。
D全員に対し公平に接する。
大田店長は日頃からこれらを実践している。
 ほめると叱るの比率が9:1と、圧倒的にほめることの多い店長だが、ベテランスタッフの態度がマンネリ化した(心の鮮度が落ちてきた)ときには、呼び出して注意する。ベテランが心を引き締めて仕事に臨まないと、店全体が締まらなくなってしまうからだ。自らの役割と他の人からの期待度をしっかりと認識してもらうのである。
 また、本店では月1回の全体ミーティングを実施している。店のスタッフのみならず、近隣店舗の店長も参加し、最近の問題点、目標、毎月の課題への取り組みなどについて話し合う。この場で他店の問題点も一緒に改善していくのだ。(すばらしい!)

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期待以上の仕事をする

 最近うれしかったこと、感動したことを伺ったところ、大田店長は「毎日感動しています」と即答した。毎日毎日「こんなにおいしい肉、生まれて初めて食べました」「本当においしかった。絶対にまた来ます!」とお客様から感謝の言葉をいただくからだ。
 年輩客から握手されたり、女性客からハグされたりもするという。(すごいですね!)チップをくださる、お土産をくださる、海外から手紙や写真を送ってくださる方もいる。中国のお客様から送られた、辞書を見ながら一生懸命書いたと思われるたどたどしい日本語の「また日本に行ったら必ず食べにいきます。ありがとう」という手紙を受け取った時は、涙が出るほどうれしかったと店長は語る。
 こういったお礼の手紙や写真はスタッフ全員が見られるようボードに掲示している。みんなのモチベーションが上がるからだ。
 このように評価が高まるほど(特にSNSなど)大きな期待感を持って多くの新規客が来店する。その場合、当たり前のサービスでは満足していただけないことを肝に命ずる必要がある。このため大田店長は、次の点に気をつけて店舗運営に努めている。
@お客様に最高の満足を感じていただく。
A期待を決して裏切らない。
スタッフに対して「毎日新鮮な気持ちで仕事に向き合い、本日オープンの気構えで、お客様の期待以上の働きをしよう」と言い続けている大田店長なのだ。

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古くてもきれいな店

 本取材のため訪問した際、ファサードを見た時の私の正直な感想は「古い店だな」というものだった。たしかに40年の歴史の重みは感じられるが、たいへん失礼ながらこのファサードから月商3000万円という数字は想像しがたかった。
 だが店内に一歩入ると、テーブルも椅子も床も手入れが行き届き、清潔感にあふれているのに驚いた。「古くてもきれいな店、それを目指しています」と大田店長は胸を張る。テーブルを拭く時はダスターを3枚用意する。1枚目はアルカリイオン水を含ませてていねいに拭く。2枚目は除菌アルコールで拭く。3枚目は乾いたダスターで調味料の容器をしっかりと拭く。もちろん毎回だ。(調味料容器を毎回きれいに拭く店は少ないですね)
 インターネットの口コミでも「古いお店だけど清潔感がある」と書かれることが多い。お客様は見るべきところをしっかり見ているのだ。
 また、お客様アンケートでの「トイレが小さい」という声に対し、社長に改善を依頼して、駐車場1台分をつぶしてトイレを増設したという。(会社を動かすのはお客様の声なんですね!)
 衛生管理面では、1時間に1回(タイマーが鳴る)、全員が手を洗うことを習慣づけている。こういった小さなことの徹底が、お客様からの信頼を高めることにつながる。

準備と努力は裏切らない

 大田店長には入社当時(8年前)の苦い思い出がある。キャリアを認められ、入社数カ月で店長になったのだが、先輩社員や他の店長、そしてスタッフからも反感を買い、仕事がうまく進められない時があったのだ。
 しかし毎日コツコツと誠実に仕事をし、率先垂範を実践していくことで、少しずつみんなの見る目が変わっていった。やがてスタッフ全員が店長の言うことに対して素直に「わかりました」と答えてくれるようになった。本当にうれしかったという。「これは毎日の小さな努力の積み重ねのおかげ。準備と努力は裏切りません」と大田店長は語る。良いと思ったことは自らすぐやる。そうすればスタッフもすぐに動くようになる。自分が積極的に行動することの大切さを実感しているそうだ。
 そんな大田店長の夢は、一升びんを東海地区ナンバー1の焼肉店にすること。お客様からら「一升びんが一番!」と言われて、従業員が大きな誇りをもって働ける店にしたいとのこと。もはや東海地区ナンバー1の焼肉店ですよ。ありがとう、大田店長!