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9年連続売上伸張、3つのポイント

 富崎店長は「いつもお客様の近くに!」「紹介したくなる店づくり」を店長方針として売上の伸長に日夜奮闘し、業績を伸ばしてきた。そのポイントを紹介しよう。ちなみに岡崎本店の売れ筋メニューは、@福寿(かに和食会席)5900円、A嵯峨野(かにすき会席)6300円、B甲羅御前(かに釜飯膳)4300円だ。 
1.攻めの営業(名刺交換毎月200枚)
 岡崎は寺社の多い土地柄から、法事の需要が高い。またトヨタ関連企業が多数あり、特に大手企業では外国人のお客様を和食でもてなす機会が多い。このため外販活動を欠かさずおこなっている。
 富崎店長は毎日全テーブルを回ってご挨拶することを心がけており、1日に5〜10組ぐらいのお客様と名刺交換をしている(富崎店長の名刺発注数は社内トップクラスだ)。毎月200枚で、年間2000枚以上にも上る。これをもとに会社訪問し、営業活動をしているのだ。名刺交換したお客様に関する「営業ノート」は実に20冊に及ぶ。これぞまさしく9年連続売上伸張の大きな要員の1つである。「岡崎のおばあちゃんの5割ぐらいは、私の名刺をお持ちだと思います」と笑顔で語る店長だ。(すばらしい!)
 テーブルでのご挨拶には「前味、中味、後味」の3つがあると富崎店長は言う。前味は店長としてのお迎えの挨拶、中味は食事を終えた時点での挨拶、後味は最後のお見送りだ。海外のお客様を接待し、交渉がうまくいったとお聞きした際には、小さなダルマをプレゼントするという。(さすがですね!)
2.ゴールド会員1000人(20回以上来店)
 甲羅では、誕生祝いや結婚記念日、長寿祝いなど様々なハレの日の宴を用意しており、利用するお客様がとても多い。特にお子様の成長を祝う「お食い初め」「一升餅」「七五三」などは、スタッフが儀式を行うためお客様との会話が増え、親しみを感じたお客様がこれを機に常連客になったりもする。「この儀式を行うことで、学生アルバイトが礼儀や正しい言葉遣いを学んで成長していくのもうれしいことです」と富崎店長は言う。
 甲羅には通常の会員(登録制)からランクアップした「ゴールド会員」のお客様が1000人以上いる。岡崎店では20回以上来店することでゴールド会員になることができ、ウェルカムドリンクが1グループにつき5杯無料などの特典が付く。1000人以上というのはすばらしい数字だ。
 この店はアフタードリンクのおすすめ成功率も社内トップクラス。スタッフのコミュニケーション能力と徹底力の高さは、店長教育の賜物である。お客様がいま何を欲しているか気付かなければ、心のこもったおもてなしはできないし、当然売上も伸びない。気付きのために目配り、気配り、心配りが必要であることを、富崎店長は常にスタッフに説いている。
3.面談とミーティング(店の空気感向上)
 「私が最も意識しているのは、スタッフの強みを伸ばすこと。リーダーシップはあまり強くありませんが」と富崎店長。(いえいえ、リーダーシップよりもスタッフのサポート、それが店長の最も大事な仕事です!)
 富崎店長は一人ひとりを伸ばすために面談をおこなっているが、その前にまずはアンケートを実施している。その内容は以下の通り。
@お客様に喜ばれたエピソード、または仲間に喜ばれたエピソードを教えてください。
Aこんな店にしたいという、理想のお店像を教えてください。
Bこの店の良いところ、もったいないと思うことは何ですか?
Cこの店であなたがやりたいこと、担っていきたい役割を教えてください。
Dその他、心配事、質問、意見など。
このアンケートによって個別の現状が事前にある程度わかり、アドバイスのための下準備ができて面談がスムーズになる。面談は毎月5〜6人で、一人ひとりとじっくり話をしていく。
 また全体ミーティングでは、最近の問題点、情報の共有、決定事項の確認、意見の確認・調整などを行う。ディスカッションを中心に意見やアイデアを出し合う場とし、店長が話しすぎないように気をつけているとのこと。自主性を重んじる場だからこそいろいろな案が生まれ、工夫を凝らした実践につながっていく。たとえば次のアイデアもスタッフのほうから自主的に生まれた。
 幼稚園教諭経験のある主婦パートスタッフは、節分の恵方巻きテイクアウト販売の際、厚紙で恵方巻きを手づくりしてくれた。写真サンプルよりもかわいくて親しみやすく、レジの横に置いたところ、過去最高の販売数となったのだ。岡崎店は小型店なのに全国5位の成績となった。(店に対するロイヤリティの高いスタッフが充実しているんですね!)

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スタッフ面接、3つのポイント

 スタッフの採用は紹介がほとんどなので、求人難のご時世でもあまり苦労はしていない。お店で礼儀礼節、言葉遣い、おもてなしの心を学ばせたいと考えるお客様(おじいちゃん、おばあちゃん)から、「ぜひうちの孫をアルバイトに」とお願いされるのだ。この春8人を採用したが、求人費はゼロである。これが、あるべき採用活動の姿だ。
 面接時の採用ポイントを富崎店長に伺った。まずは電話の声で判断するとのこと。話し方で躾ができているかどうかわかるそうだ。この時点でお断りすることもあるという。面接に入ってからは以下の3つをポイントにしている。
@靴の脱ぎ方(所作や置き方):こちらにお尻を向けて脱いでいないか、隅に置くよう気をつけているかなどをチェック。
A第一印象と笑顔:人間性が笑顔に出る。
B最近感動したことはあるか:接客業は歓働業。感動する心がある人、小さなことでも感謝できる人を採用したいため、感動の有無を尋ねている。

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店長・スタッフが感動した瞬間

 店長もスタッフも日々感動の瞬間に立ち会い、それを糧にまた仕事に励んでいる。そんな感動の例を紹介しよう。
 ある日、少し足の不自由なおばあちゃんを含むご家族(3世代)が来店した。店に入る際、おばあちゃんが扉にもたれかかったのだが、そのとき幼いお孫さんが扉を閉めたため、おばあちゃんの手が扉のすき間にはさまってしまった。どうしても抜けなくなり、「痛い、痛い」と苦しげにおばあちゃんはうめく。店長が水で濡らしながら引っ張って何とか手を抜くことができたけれど、手は腫れ上がり、皮もむけて悲惨な状態に。骨が折れているかもしれない、すぐに救急車を呼ばなければと店長は思った。これは大変なことになったと、思わず賠償のことまで考えたそうだ。
 ところが当のおばあちゃんは、せっかく来たのだから店で食事をすると言う。氷やおしぼりで冷やすなど、女将をはじめスタッフ全員で必死になってできる限りの手当てやサポートをしながら食事していただいた。そしてお帰りの際、おばあちゃんはスタッフたちに「私が悪かったんです。このお店の人たちはとても良くしてくれた。今日は本当にありがとう。楽しく食事ができました」と、感謝の言葉をくださったのだ。おばあちゃんのやさしい言葉を聞いて、女将もスタッフも涙をこぼしてしまった。何かトラブルが起きたら、まずは全員で全身全霊を込めて対処・対応する。その大切さをみんなで学び、1つ成長したスタッフたちである。
 今でもこのおばあちゃんは、定期的に高齢者施設から杖をつきながら訪れてくださる。店長がお迎えに出るたび、あたたかく手を握ってくれるという。

 もう一つ、素敵な話を紹介する。
 甲羅グループでは年に1回、成果発表会を行う。数年前、社内で「ミニ甲羅」と呼ばれている岡崎店が全国の優秀な5店舗の1店に選ばれた。売上伸び率、ミステリーショッパー、お客様の評価が、いずれも高かったためだ。そして発表会でプレゼンをすることになった。500人を超える全社員の前での店長・料理長・優秀なスタッフ3人による発表は、社長も感動するほどの完璧なものだった。
 店長は売上伸長の要因を発表し、スタッフたちはお客様とのエピソードや岡崎店が大好きなことを元気いっぱいに熱く語った。そして最後に全員で和太鼓を叩き、会場全体の空気を思いっきり盛り上げた。その迫力に誰もが感動し、ついに岡崎店は優勝して、その年の甲羅グループナンバー1店舗になったのである。ちなみにこのときの3人のスタッフは後に全員、一流企業に採用された。(いい仕事してますね、富崎店長!)

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自分への5つの約束

 最後に富崎店長の目標・姿勢についてお尋ねしたところ、「自分への5つの約束」について語ってくれた。これは、常連客を大勢持っていたベテラン女将が異動することになった時、売上が下がってしまうかもしれないとの危機感を抱いた富崎店長が、自分を戒める上で自ら作成したものである。
@「ありがとう」「感謝します」「ツイている」「おかげさまで」を口癖にする。
 言霊(ことだま)として発し続ければ自分も変わり、周りも変わる。
A「記憶」ではなく「記録」を残すこと。
 人の記憶は曖昧なもの。今やっていることは、来期のために「記録」として残すこと。
B「人の真似」でもよいので「即行動」すること。
 自分の長所を知った上で「人のスキル」を真似し続ければ、「自分のもの」になる。
C「お金を使わず、知恵を出せ」
 改善は好調の時にやれ。好調だからこそ、失敗してもやり直せる。
D「算(さん)多きは勝つ」(孫子の言)
 事前に周到な準備(プラン)を行うこと。それが勝敗を決める。
この「自分への5つの約束」を実行したおかげで、ベテラン女将が異動した後も売上は伸び続けたのである。

 富崎店長、すばらしい話をありがとう。この姿勢があれば、この先15年、20年と岡崎店は伸び続けると思います。