きちりのコンセプト

前川店長は学生時代にきちりの経営理念である「大好きがいっぱい」に大いに共感し、入社したという。ホスピタリティの原点ともいうべきそのコンセプトをご紹介しよう。

「きちりを大好きでいっぱいにしたい」

家族、恋人、友達、お客様社員、パートナー(P/A)、お取引業者様、誰でもいい自分の周りにいる人達を大好きになろうそして大好きに思っている人達から愛されるべき人間になろう顔を見たら、目があったら“ニコッ”とされるような愛すべき人間になろうそしたらみんなすごく幸せな人間になれると思う大好きが一杯な人達と一緒に仕事が出来たらすごく楽しいと思う大好きが一杯で溢れている店をみんなと一緒に創っていきたいそして“きちり”が沢山の人達から“ニコッ”と微笑みかけられる存在になりたい

前川店長がシルバー賞を受賞したのは、烏丸店の前に勤務していた難波店の売上2ケタ増という実績に加え、この「大好きがいっぱい」の理念を周りのすべての人に対して表現できていることが評価されたからだと、営業統括部長の平田氏は述べている。

前川店長は、お店を利用するお客様だけでなく、本社サポートオフィスから来たメンテナンス担当者やパートナー(P/A)、お取引業者様にも、大好きな人に接するように応対しているという。

周りのすべての人たちに対して「大好きがいっぱい」を日々実践しているのだ。



「貴店に出会えて幸せ」とお客様に言わせる店

前川店長の方針は「来店されたすべてのお客様に感謝の気持ちを伝えたい」で、これをパートナー全員が実践している。そして気持ちが伝わったお客様からお礼の手紙がたくさん届く。最近届いた一通をご紹介しよう。

「突然のお葉書失礼します。…(中略)…先日貴店で過ごした時間は大変素晴らしいものでした。本当にありがとうございました。お料理を作って下さった方、お酒をご提供して下さった方、サーブをしてくださった方、皆様にお礼申し上げます。また貴店を全面禁煙にしてくださっている店長にもお礼申し上げます。お料理、お酒とタバコの煙のないきれいな空気の中、五感で味わう事が出来ました。さらに空調を整えて下さったり、お水を持ってきていただいたりと、そのお心遣いに大変感激いたしました。このような細やかな気配りをして下さる店員の方にはあまりお目にかかったことがなく、本当に嬉しく思いました。

おいしいお料理・お酒をお店の雰囲気ごと楽しめる貴店に出会えて本当に幸せです。このような素晴らしいお店がもっともっと増えていくことを願っております。京都を再訪した際には是非また貴店を利用させていただます。この度は本当にありがとうございました」

『貴店に出会えて本当に幸せ』とは、なんて素敵な言葉だろう。私たち飲食業に携わるものはすべて、この一言のために日夜奮闘しているのである。こんなふうに言っていただける店を創り続けたいものだ。



クオリティレポート、クレームシート、ナレッジで教育

きちりでは「大好きがいっぱい」のスタッフをどのように育てているのだろう。気になる採用・教育について伺った。

まず、店長面接での前川店長の採用基準は二つ。一つは、話したり聞いたりするときの表情がよいこと。現在働いているメンバーとうまく係っていけそうかどうかを判断する。

もう一つは、家族や友人といった大切な人たちを気遣う言葉に注意を払っている。働いているときも周りの人を気遣えることが重要だからである。自分のことしか考えていないような人は採用しない。

新人にはマニュアルではなく、きちりのクレドを理解してもらう。

まずはクオリティレポート(クレドが実践できている現場での感動実例集)を読んでもらう。

きちりでは毎月各店の店長からお客様に喜ばれた事例が全店に届けられ、情報を共有している。このような教育を行っている飲食チェーンのサービスレベルは高い。読者もぜひ参考に!

またクレームシートも共有し、一つ間違えば大問題にもつながってしまうサービスの落とし穴を実感させる。読んだ感想を聞き、説明をきちんとするのが前川流だ。

さらに、きちりにはナレッジ(知識・知恵)と呼ばれる心配りの事例集もあり、これも全店で共有されている。たとえば、妊娠中のお客様にはブランケットやクッションを用意。ブーツの女性客には着脱の際に椅子をすっと差し出す。お客様のタバコの銘柄を覚えて準備し、切れそうなタイミングを見計らって「よろしければ」とすすめる。

3ヶ月に1度、社内ナレッジコンテストが開催される。従業員の投票で表彰される人が決まり(これが重要!)、賞金も出る。


パートナーが失敗しない仕組みづくり

お客様の席から「おめでとう」「乾杯」という声が聞こえたら、前川店長は花やデザートのデコレーションなど、プレゼントを準備する。派手な演出はせずに「お連れ様からです」とさりげなく渡す。そんな優しさがお客様を惹き付けるのだ。難波店時代のお客様からは「異動したと聞いて悲しかったよ」という手紙もいただいているし、大阪からわざわざ結婚の報告に来てくださったカップルもいる。(本当にすばらしい仕事だね!)

毎日の店舗運営で前川店長が特に気を配っているのは、次の2点。

1.常にアンテナを高くし、店全体を見渡して状況把握と情報収集に努める。
2.パートナーが失敗したら、それを繰り返さない仕組みを作る。(店長はそのためにいるのであり、パートナーがお客様にほめられるのが何よりも嬉しいと語る)

「この店の強みは人そのものです。全員、私の大好きな人たちです」と前川店長。パートナーの誕生日には自らデコレーションケーキを作って驚かせたりする。店長の携帯にはみんなの誕生日がメモされ、当日には通知するようセッティングされている。



100年後も京都の老舗として残る店に!

きちりにはユニークな販売促進の仕組みがある。500円分のきちりコインで、金と銀の2種がある。年2回、顧客への感謝の気持ちを込めて金銀セットで手渡す。金コインはきちりからお客様へのプレゼントで、銀コインはお客様の大切な方へのプレゼント用。目の前で銀コインを交換する恋人同士やご夫婦もいるそうだ。

また前川店長は、全体ミーティングとカウンセリングでパートナーとのコミュニケーションを図っている。月1回の全体ミーティングでは「こんな店にしたい」という想いをしっかりと語り、理念や問題点の確認も行う。

最近、全体ミーティングをしている店が少なくなったように思う。チームワークの醸成や店の雰囲気づくりのために必要なことなので、ぜひ実施していただきたいものだ。

カウンセリングでは現在の問題点の他、将来の夢についても話し合う。夢の実現に向けて今何をすればいいのかを自分で考えさせ、次の目標を定めさせて、「これをやれば夢に近づくね」とアドバイスするのだ。時にはカウンセリングが1時間以上に及ぶこともある。

前川店長はこの店への異動当初、常連のお客様から「このお店が大好きだから頑張ってね」と励まされた。店長の頑張る姿を見て、その方は次々と新しいお客様を紹介してくださるという。とても感謝しているそうだ。

今後の夢は「きちり烏丸店が京都の老舗として100年後も健在でいること」。そのための基礎づくりに貢献したいと熱く語ってくれた。こんな夢を語った店長は初めてで、その想いの深さに私は感動した。

インタビューを終えて店から出て行く私を、前川店長と広報の山脇氏はいつまでも温かく見送ってくれた。私の心まで大好きがいっぱいの気持ちで満たしてくれたきちりのみなさん、ありがとう!