画像
売上伸び率200%、3つの要因

1.抜群のリピート率(2回目以降のお客様を全て記憶)
 水本女将はかつて高単価の店に勤めていたのだが、その際のおもてなし力がすばらしかったため、ヘッドハンティングによって玄品の女将として入社した。
 「接待席を大切にする」のが水本女将の店舗方針である。北新地店は人通りの少ない通りに面し、しかも地下1階、おまけに看板も出せないなど、立地の悪さが目立つ。このためグランドオープン時には近隣のホテルやオフィス、高級クラブなどに対して営業活動をおこなった。本部は最初の3カ月間の売上を見て厳しい状況であることを把握していたが、グンとアップした12月の数字にはかなり驚いたようだ。
 初回客が2回目に来店する率を水本女将に尋ねたところ、「ほぼ100%です」とのこと。驚愕である。通常は25〜30%なのだ。この脅威のリピート率はなぜなのか?
 「この店は30坪40席なので、全席にご挨拶回りをします。鍋料理のお手伝いなどをしながら、お客様の会話を盛り上げています。お客様が接待のためにお呼びした方を、こちらも接待役のお客様と一緒になって接待させていただいたりします」と水本女将は語る。(さすがですね!)
 こんなエピソードがある。3人対3人の、接待席の話だ。接待される側のお客様の方が早めに来店されたのだが、そのとき手みやげをお持ちであることに気付き、接待する側のお客様が来店された際にそれをお伝えして、すぐに玄品のお土産を準備させていただいたのだ。そのお客様は「恥をかかずにすみました。女将、ありがとう!」と、たいへん感謝されたという。(こういう気遣いが大事ですね)
 オープン6カ月で、女将が認識している常連客は300人以上。2回目以降のお客様は全て記憶しているというからすごい。会話した内容を書き込んだ手づくりのDMを、常連客全てに発送している。
 水本女将は白子のおすすめも30%と、社内で圧倒的な率を誇る(平均10%程度)。近隣高級クラブの女性が出勤前にお客様同伴で来店することも多く、この女性たち(10人ほど)をとても大切にしている。そのポイントの一つとして、女性たちの出勤時間に支障をきたさないよう、すみやかに料理を提供しているという。(なるほど!)

2.試食会を兼ねた全体ミーティング
 玄品のメインメニューは高額なふぐ料理なので、スタッフがふだん気軽に食べるのは難しい。このため試食会を兼ねた全体ミーティングを実施して、料理について学んでもらうようにしている。商品の味を知り知識を身につけることで、お客様にきちんと説明できるようになるのだ。
 ミーティングでは自由にディスカッションが行われる。改善提案も出される。リーダー的なスタッフには責任感を持たせ、女将の仕事の一部も任せるようにしている。このようにして、自分たちで考えて行動できる自立型スタッフを育てている。
 またグループLINEでは、公平にスタッフをほめることと、感謝の言葉を忘れないことに気を配っている。たとえば「お客様がお話に夢中の時、場の雰囲気を見ながらタイミング良く料理を提供していたね。ありがとう!」という具合だ。(いいですね!)

3.まかない日記(ブログ)で採用率・定着率アップ!
 玄品のブログ「まかない(賄い)日記」では、全店のまかない料理が公開されている。大阪北新地では水本女将も力を入れて作っているそうだ。
 ボリューム満点の唐揚げ、手づくりハンバーグ、カツカレーなどが特に評判で、「玄品のまかないはおいしい」とスタッフから友人に伝わり、5人もの採用につながったという。(スゴい!)だが、調理場が慌ただしかったり緊張感が漂っていたりすると、遠慮して食べないスタッフもいる。そんなとき女将は「いっぱい食べてきや」と声をかけて、食べやすいようフォローしている。深夜、みんなで一緒においしいまかないを食べているからだろうか、スタッフの定着率は抜群だ。
 昨年のクリスマスには、シフトに入ってくれたスタッフ全員にホールケーキをプレゼントした。製菓学校で作られたお値打ちなケーキを、本部からのサポートもあって購入できたのだ。(いつもスタッフのことを考えているんですね!)

画像
女将がいつも気をつけていること

 売上伸張の立役者である水本女将は、ふだんどんなことに気を配りながら営業しているのだろう。
@入口周辺(感動的なお出迎え)
A通路では立ち止まり、笑顔で一礼
B全席を回って、女将としてご挨拶
C接待側のお客様とご一緒に接待(鍋料理のサポート)
Dニーズの先読み(次のニーズを予測して動く)
E温かいお見送り(全員、手を止めて挨拶)

 「お見送り」には特に気を配っている。スタッフ全員にインカムで「手を停めてご挨拶を!」と促す。「心をこめて『ありがとうございます』と挨拶すれば、手を上げて応えてくださる方もいるし、背中で返事をしてくださる方も多いんです」と水本女将は言う。背中のオーラが見えるのだ。(スゴイですね)
 「お迎え3歩、見送り7歩」という言葉がある。最後の印象が大切ということだ。お見送りは終わりではなく、次の来店の始まりなのだ。また来たいと思っていただけるよう、心をこめてお見送りしたいものだ。最後にお客様の名前を呼びかけるのも、余韻効果がある。
 水本女将が嬉しいと思ったことをお聞きした。
 一つは、初めて来店したお客様の話。満席のためお断りせざるを得ない状況で、「申し訳ございません。またお越しください」と言って、クーポン券をお渡しした。後日このお客様が再び来店し、「先日は大変申し訳ありませんでした。ご来店ありがとうございます」と挨拶したところ、そのお客様は「よく覚えていてくれたね。女将が着物姿で丁寧にお客をお見送りしている様子がすごく感じよかったので、また来る気になったんだよ」と言ってくださった。それがとても嬉しかったそうだ。
 もう一つは、記念日のお客様の話。玄品ではFG(ふぐ)クラブの会員にバースデーDMを送っている。奥様の誕生日にご夫婦で来店したお客様に対し、通常はお土産にポン酢をプレゼントするのだが、このときはフルーツの盛り合わせとチョコレートの誕生日プレートをサービス。奥様は「他のお店でこんなことをしていただいたことはありません。女将さんありがとう!」と、女将の手を取って喜んでくださり、女将も感動したという。

画像
ほめると叱るの比率は8:2(ほめ方 叱り方のポイント)

 あったかい雰囲気でコミュニケーションするのが水本女将流。スタッフたちの多くは女将にとって自分の子どものような年齢である。だからみんなのお母さん的存在だ。仕事のことだけでなく、プライベートな悩みごとや恋愛相談にも乗る。
 水本女将のほめると叱るのバランスは、ほめるほうがかなり多くて8:2。小さなことであっても進歩したことがあれば、みんなの前で心からほめる。叱るのは、お客様に迷惑をかけそうな時や、危険なことをした時。そういう場合は徹底的に叱る。だが後まで引きずらないようカラッと叱って、フォローもする。

 私はクライアント先の店長セミナーで、しばしば「ほめ方・叱り方」の話をする。スタッフをほめる目的は、身に付けさせたい行動の強化である。その行動を認めて、しっかりほめることが重要だ。

<ほめ方のポイント>
@お世辞でなく心からほめる
Aよい行為や小さなことを見逃さずにほめる
B「私」や「店」を言葉に入れる。
 「私が本当に助かった!」「店にとってありがたい!」など
C地味な努力や縁の下の力持ち的な人をほめる
D新人は早い機会にほめて、仕事に自信を持たせる
E人を介してほめる
Fメモ・カード・手紙を使ってほめる

 店長の愛情あるほめ言葉が、スタッフを変えるきっかけにもなる。信頼し尊敬している店長にほめられたら、本当に嬉しいものだ。

<叱り方のポイント>
@事実だけを叱り、人格を叱らない
A気付いたら、その時、その場で叱る
Bキャリアや性格に応じて叱る
C本人のために愛情を持って叱る
D素直にカラッと叱る
E時には集団全体を叱る
F最後は本人への期待と励ましの言葉でしめくくる

 また、「これはあなた(君)らしくない」と添えて叱るのは、いつもはそうではないことを認めた、上手な叱り方と言える。
 なお、叱り方のポイントと書いたが、これらは全て、スタッフとの信頼関係があることが前提であることを忘れないでいただきたい。

 ほめるのも叱るのも、バランスや順序が大事。「ほめて、叱って、励ます」の「サンドイッチ法」をうまく使ってほしい。

 最後に、水本女将の夢を伺った。「玄品の若女将を増やしたい。そのためにも、『女将は絶対に必要』だと思われるような仕事をしていきたいと思います」とのこと。ありがとう、水本女将! ますますお客様が増えて、売上が上がり続けますように!