母店制度とキャスト教育

チムニー株式会社の母店制度については先月号でも紹介した。これは母店(教育店舗)を核とする教育システムのことで、母店は現在12店舗。新入社員の研修やキャスト(P/A)の再教育、新人店長の悩み相談も行い、本社からの連絡・指示も母店からスタートする。すべては母店からはじまるのだ。母店は指示系統のトップであり、他店の完璧なお手本でなければならず、課せられた責任は重い。

今野店長の強みはキャスト教育。「100の仕事を70%こなすよりも、50の仕事を100%確実にやることのほうが大切」という考えでキャストを教育している。完成度の高い仕事に徹する姿勢が、母店制度のあり方にそのままつながっているのだ。彼は母店のキャストが他店へヘルプに行く時には、「“母店のキャスト”という自覚と誇りを持って行け」と指導している。

キャストの採用は面接重視。教育初日のオリエンテーションには時間をかける。フードサービス業の心得、チムニーの理念、キャストの姿勢(笑顔で楽しく仕事をする)等々についてしっかり教育する。今野店長は特にキャストのモチベーションアップにこだわり、情熱を傾けて取り組んでいる。

2日目からはベテランと新人がペアを組み、マンツーマンで教育していく。ベテランの気配りを学ばせるためだ。店長は1日1回必ず新人とのカウンセリングを行い、仕事のコツを確認して、体得できるよう指導しているという。(さすが!)商品のおすすめもマニュアル通りの説明でなく、自分の言葉でできるように指導。そのために、全キャストに新メニューやおすすめ商品の試食をさせている。

キャストのランクアップ制度は、新人(トレーナー)→ジュニア→シニア→リーダーへと進んでいく。リーダーともなると、店長の補佐的な仕事もする。

画像

キャストに常連客がつく店

今野店長の店長目標は「また来ていただく店」ではなく「よく来ていただく店」にすること。そしてキャスト一人ひとりに「あなたがいるから来るんだ」と言ってくれる常連客を持たせること。(いいですね!)今野店長自身もこの店に異動して1年足らずだが、すでに250人を超える常連客と親しく会話ができている。ホールのキャスト25人も、それぞれ30人以上の常連客を持っている店なのだ。

なぜキャストにお客様がつくのか。それはあらゆる面でのきめ細かい気配りにありそうだ。この店では、次のようなちょっとした気遣いが徹底されている。

●お客様が薬を出したら氷なしの水をすぐ提供。
●お客様が箸を落としたらすぐに替わりを用意。
●お子様連れの場合はお絞りを余分に出す。
●赤ちゃんには毛布を用意。
●タバコの特殊な銘柄はコンビニで買ってくる。
●中間サービスチェック表が稼働している。
(来店時間、卓番、灰皿・お絞り交換、取り皿、お茶・お冷のチェック表がパントリー内に掲示され、チェックシステムとして稼働)
●ファーストドリンクを速やかに提供。
(オーダー途中でもドリンクが先に出てくるほどの早さは、この店ならではだ)

また、クレンリネスが行き届いているのも気配りの一つといえるだろう。その具体例が「サッ!と拭く運動」の推奨だ。ピークタイムでもアイドルタイムでも、気が付いたらその都度サッと拭く。小掃除を常にしていれば、大掃除は必要なくなるのだ。

トイレ清掃は、お花畑(トイレのこと)チェック表というものがタイマーで稼働していて、30分ごとに鳴る仕組みになっている。どれだけ忙しい時でも、30分に一度はトイレがピカピカになるというわけだ。ちなみにキャストの休憩は30分で、タイマーは休憩の告知にも活用されている。

画像

障がいをもつお客様から招待された店長

ある日、知的障がい者の息子さん(35歳)を持つご家族が来店した。店長は聞き取りにくい言葉を真剣に聞き、また進んで笑顔で話しかけた。それがご本人にもご両親にも好印象を与え、以来このファミリーは常連客となった。そしてある日ついにこのご家族は、息子さんの断っての願いから、今野店長をホームパーティーに招待したのである。

それはチャンチャン焼きを親族で楽しむパーティーで、親族以外の参加者は今野店長ただ一人だった。「今までいろいろなお店に行きましたが、あんなにさりげなく心地よく迎えていただけるお店は他にありません」と、ご両親。ご本人も「本当にありがとう!」と、両手でぎゅっと握手してくれた。手のぬくもりと温かい言葉にじんとして、店長はあふれる涙を止めることができなかった。

自分はごくあたり前のことを一生懸命やっているだけ。なのにこんなにも感激してくれる人がいる!…障がいを持つ人の言葉や気持ちをあたり前のように汲んで行動するのは、実際は簡単なことではないだろう。でも今野店長もキャストたちも、それをごく普通のことだと思っている。感動に満ちた素敵な体験は、毎日の「一生懸命」から生まれるのだ。

画像

体験アルバイトから入社決定!

一人のアルバイトにまつわるエピソードを紹介しよう。ある日本社から、母店で一人の学生の面倒を見てくれと連絡が入った。新聞配達で生計を立てている一流大学の奨学生が、はなの舞でアルバイトを体験したいとのこと。2週間の期間限定だった。

今野店長が面接したところ、声が小さく、目を見て話もできず、これは無理だと思った。しかし部下のマネジャーとも話し合って、何とかしてこの学生を変えようと考えた。飲食店の素晴しさや接客の楽しさを熱心に伝え、発声練習を徹底して繰り返したことで、少しずつ声が出るようになった。敢えて常連客の接客をさせ、「もっと元気を出せ」などとお叱りも受けさせた。そんな荒療治もあってか、学生は日に日に変わっていき、10日を過ぎる頃には素晴しい笑顔と高らかな声で「いらっしゃいませ!ご案内いたしま?す!」と、元気にお客様を迎えられるようになった。

「楽しくなってきただろう。キャストで続けてみたら?」と店長が聞くと、「楽しいです」と答えるまでになった学生は、2週間の体験を終えた。

しばらくして本部から「あの学生、4月からチムニーへの入社が決まりました」という連絡が! 驚いた店長がすぐ本人に確認したところ、「店長のおかげで、飲食店の素晴しさが身にしみて、入社したいと思うようになりました。本当に感謝しています」と学生は答えたのだ。

今野店長が真剣に教育を考え、本気で一人の学生と向き合ったことから、その人生も変わったのである。常に本気で愛情いっぱい。部下と真剣に接することの大切さを、私たちは今野店長から学ばなければいけない。

今野店長はクレーム対応も誠実だ。キャストがドリンクをテーブルにこぼして、お客様の携帯電話やブランドもののシガレットケースが台無しになったことがある。携帯の手配やケースのクリーニング等を徹底しただけでなく、ご自宅を訪問してひたすら何時間も謝り続け、同席していたご兄弟の心まで動かして、味方になっていただいたという。いつもとことん本気で、誠実な人柄なのだ。

今野店長は他にもこんな努力をしている。外商活動は地域の大手企業30社を徹底マーク。月に1回は挨拶回りをして新メニューや旬メニューを紹介する。名刺交換は月250枚。交換した翌日には電話し、訪問。他部署も紹介していただくそうだ。

店長就任キャンペーンというユニークな取り組みも実施。昨年店長がこの店に就任した時に名刺交換したお客様に、販促活動の一環として焼酎1本プレゼントしており、来店効果を上げている。名刺交換→翌日お礼の電話→手書きのDM発送→再来店。このプロセスが常連客をつくる。

最後に、店舗運営で大切なことは何かを伺った。「キャストの変化にすぐ気づくことと、対応の早さですね」とのこと。早いレスポンスでキャストやお客様の信頼をつかみ取る。はなの舞を代表する今野高明店長は、今日も本気で部下やお客様と向き合っていた。

今野店長、素晴しい体験談をありがとう!