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坪売上65万円、好調の3要因

 この店は川崎駅前という好立地にある。私が取材に伺った15時でもほぼ満席の盛況ぶりだった。驚異的な坪売上65万円の要因は次の通り。
1.焼肉ファストフード(一人焼肉)の成功
 川崎は焼肉の聖地と言われるほどの激戦区だが、「高品質の肉・リーズナブル・提供時間3分以内」の一人焼肉業態により、地域の20〜30代の男女から高い支持を得ている。
2.店モットーの徹底
 オープン当時から「早い」「清潔」「逃さない」の3つを店のモットーとし、徹底して実践してきた。これらが定着したことから、最近では「なめらかに」を新たに意識し、スタッフへの指導を行っている。
3.スタッフの元気&店の活気
 居酒屋のような活気とスタッフの元気さがすばらしいと、SVチェックの際にしばしば言われる。伊美統括マネジャーは、サービスが過剰にならないよう注意しているという。また、特定のスタッフだけが元気なサービスをするのではなく、常に安定したオペレーションで、バランスの良いサービスを提供できるよう意識している。声掛けの内容も統一し、お客様にストレスを与えないように、当たり前のことを当たり前に自然体で行うように配慮している。活気・元気でありながらも、ファストフード店としてのさりげない心配りを大切にしているのだ。

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クレーム対応

 川崎店には「今日もありがとうございます」と声掛けするような常連のお客様が多い。常連客から「伊美ちゃん」と呼ばれるほどお客様との関係が近い伊美統括マネジャーだが、店長時代には大変なクレームを受けたこともある。すばらしい対応の一例を紹介するので、ぜひ参考にしていただきたい。
 ある日、一番奥の席から「どうなっているんだ、ふざけるな!」という怒鳴り声が、レジのそばにいた伊美店長にも聞こえてきた。スキンヘッドで強面のお客様だ。ベテラン社員の対応を見守っていたが、お客様が落ち着く気配が見えない。どうやらそのお客様がライスのおかわりを注文したのに、スタッフが伝票を見落としたため提供できず、10分ほど待たせたらしい。キッチンの様子を見てどうやら忘れられていると感じたお客様が催促したところ、スタッフがすぐ謝らずに、たった今伝票が通ったような返答をしたため、お客様の怒りが爆発した。
 こうなったらベテラン社員が頭を下げたぐらいでは収まらない。店内全体の空気が悪くなり、他のお客様はみな帰ってしまった。店の外には行列ができているけれど、この雰囲気では入っていただけない。ついに店長が対応し、「こちらの不手際で大変なご迷惑をおかけし、誠に申し訳ございませんでした」と丁寧に詫びたものの、怒りは鎮まらない。「私どものミスですのでお支払いは結構です。どうぞゆっくりお召し上がりください」という店長の言葉に対し、「もういらない。金は払う。払わなければ俺はただのクレーマーになってしまう。クレーマー扱いするな!」と言うのだ。
 このとき店長が「私がお客様の立場だったら、もっと怒ります」と言ったことで、お客様はようやく少し話を聞く態度を見せた。店長はさらに「スタッフから経緯を聞いて私も驚きました。お客様のお怒りはごもっともです。ずいぶん我慢していただいたと思います。私ならもっと早くキレたでしょう。本当に申し訳ありません」と、お客様に共感する姿勢を見せて謝り続けた。その結果、お客様はついに「もういいよ」と呟いたのだ。
 それでも金は払うと主張するお客樣に、「お金は頂戴しますが、今回のような失礼のない、しっかりとしたおもてなしをするチャンスをください」とお願いし、もう一度来店することを約束していただいた。やっと表情の和らいだお客様と一緒に、店長は店を出た。お客様は店長の肩に、店長はお客様の腰に、それぞれ手を回して駅まで歩き、駅ではお客様の姿が見えなくなるまでお辞儀をしてお見送りした。1ヵ月後、そのお客様は約束通り来店してくださった。
 相手の立場に立って信頼関係を深めながらじっくり話を聞き(積極的傾聴)、相手の感情を受け止めて共感しながら理解すること(共感的理解)が、コミュニケーションにとって非常に重要だ。伊美店長はまさにこのとき、これを行うことでお客様を理解し、お客様に納得していただけたのだ。

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卒業時の置き手紙

 伊美統括マネジャーはスタッフの採用時、「仕事は忙しいけど楽しんでね」と話す。すると「忙しいのに楽しめるんですか」と尋ねられたりする。そんな時は「もちろん楽しめるよ」と答える。「みんなで1つの目標に向かって、与えられたポジションを一生懸命やる。困ってもフォローしてくれる人がいる。失敗しても悔しいことがあっても、その経験を生かせる次の機会がある。お客様の『おいしかったよ。また来るよ。ありがとう』の言葉に励まされる。忙しい時間の中からそういう大切なことが生まれる。そんな日々を楽しんでください!」
 大学4年で卒業する時、バックヤードにこんな置き手紙を残してくれるスタッフも多い。「短い期間でしたが楽しい時間を過ごしました。本当にありがとうございました」「大変お世話になりました。皆さんと一緒に働くことができて楽しかった! 心から感謝しています」 みんな楽しい思い出を胸に旅立っていくのだ。
 常にスタッフ全員に声掛けすること、これが伊美統括マネジャーのスタッフとのコミュニケーションの基本だ。4店舗の全スタッフ(80人以上)の名前を覚えていて、名前を呼びながらコミュニケーションを図っている。また、誕生日には一緒に食事をする。女性は寿司、男性は中華だという。

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 スタッフを大切にしている店には繁盛店が多いと実感する取材だった。良い話をありがとうございました、伊美統括マネジャー!