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「僕たちは世界一を目指すんだ」 |
ロウリーズ大阪店がオープンした2年前は、リーマンショックで世界経済が震かんした時期にあたり、当初は月商1700万円という厳しい経営状態だった。現在は2200万円(売上前年比125%)に伸び、着実にファンを増やしている。ビバリーヒルズ本店で食べたプライムリブに感激し、日本でも味わえると知って来店するお客様も多い。
河野総支配人の東京店時代、ロウリーズでプロポーズして結婚式を挙げ、毎年結婚記念に訪れる常連客がいた。お子様が他の日に「ロウリーズに行きたい」と言うと、お母さんは「ロウリーズは1年に1度の一番大事な日に行く、私たちの大切なレストランなの」と答えたそうだ。なんて素敵な答えだろう。
多い時には8割が記念日予約のお客様だという。満足度の高さが伺える、実にすばらしいレストランなのだ。
「世界のロウリーズの中で、世界一のホスピタリティ・クオリティを目指そう」というのが、河野総支配人の営業方針だ。スキルや知識ではなく、お客様に対する愛情で世界一を目指そうとしているのだ。このポリシーが、スタッフに大きな誇りとモチベーションを与えている。
お客様との距離感を近くするのが、河野総支配人の具体的なやり方。ロウリーズでは、グリーティングからオーダーテイク、会計までを一人で担当する。そのためお客様との会話が増え、商品説明もていねいで気配りも増す。「学生アルバイトが大半なので知識やスキルは十分とは言えませんが、一生懸命な姿勢ではどこにも負けない店づくりを!」と河野総支配人は語る。
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グランドオープンからのP/Aが9割 |
グランドオープン時の応募は300人。うち70人が採用された。4人に1人の狭き門だ。
河野流の採用基準は次の通り。
1.第一印象が良く、笑顔がすばらしい
2.相手の話を素直にしっかり聞ける
3.協調性があり、チームを大切にする
「自分のペースで話す自分本位な人は採用しません」とキッパリ。(なるほど)
現在、グランドオープンからのメンバーが9割も在籍。大学を卒業した人以外はほぼ全員残っている、定着率抜群の店だ。その要因を探ってみた。
@P/Aは初期教育でオペレーションの基礎を徹底的に学ぶので、実践への不安がない。
A担当トレーナーが新人に付きっきりで徹底教育している。
B総支配人とスタッフとのコミュニケーションが良好である。
C自分の存在が認められ、この店で必要とされていることを、P/A一人ひとりが実感できる。
Dスタッフ全員がロウリーズへの愛着心と誇りを持っている。
Bはとても重要。総支配人は毎日全員に声をかけている。特に新人には「不安なことがあれば言ってね」「トイレは大丈夫?」「のどが乾いてない?」など、こまめに話しかける。また、朝礼や出勤者の多い午後6時など、3回に分けてミーティングを実施。全体ミーティングも毎月行う。ミステリーショッパーの問題点などは全員で話し合うのだ。
Dの理由も意義深い。ロウリーズというブランドの価値をお客様が認めてくれるからこそ、スタッフは店への誇りを持つ。また、支配人に愛されたスタッフは素直にお客様を愛するようになる。店が大好き、支配人が大好き、お客様が大好きという正の連鎖が広がっていくのだ。
店に対する店長やスタッフの愛情の深さと業績は比例する。これまでに120人の店長を取材してきた私は、そのことを実感している。
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サーバー初日の、感動の瞬間! |
ロウリーズの新人にとって、テーブルを担当するのは一つのステイタスだ。最初の1ヶ月半は、お客様の前でのサービスはできない。先輩の横に付いてその一挙手一投足を見るOJT学習に終始するのだ。
その後、担当テーブル1つからスタート。3ヶ月ほどで4テーブル担当も可能になるが、サービスレベルがキープできなければテーブル数が減ることもあり、なかなか厳しい。5テーブル担当やプライベートルーム(個室)担当が、みんなの憧れだ。
「仕事の報酬は仕事」という言葉がある。報酬は給料ではなく、ステップアップされた次の仕事に表れるという意味。ロウリーズはこれを地で行く企業だ。
スタッフのがんばる姿に河野総支配人が感動した事例を紹介しよう。なかなか仕事が覚えられず、2年間もサーバーに出られない女子学生がいた。裏方の仕事にも慣れ、それなりに日々の仕事をこなしていたが、やはりサーバーとしてお客様の前に立ちたい気持ちを捨てられず、ある日、もう一度トレーニングを受けたいと申し出たのだ。
トレーナーによるOJTが再開された。最終試験を行うのは支配人。ところが何度チャレンジしても許可が出せるような技能が身につかない。7回8回やっても不合格。その後しばらく試験を受けに来なかったのであきらめたのかなと思っていたら、これが最後と覚悟してまたやってきた。実に10回目の挑戦で、本人もトレーナーも気合いが入っていた。その完璧なオペレーションを見て、支配人は心を揺さぶられたという。「合格」の言葉に、彼女とトレーナーは抱き合って喜んだそうだ。
そしてついに彼女は初めてお客様の前に立った。緊張で震えているのが支配人にもわかった。練習したことをすべて忘れてしまいそうなぐらい緊張して痛々しいほどだったが、それでも彼女はひたすら心を込めて、一生懸命お客様に尽くしたのだ。
彼女はその日がデビューであることをお客様に言わなかった。お客様の前に立つからには一人のプロなのだと考えていたからだ。そのお客様は、帰り際に彼女にこう声をかけた。「今日はあなたが担当で本当に良かった。ありがとう」と。
その瞬間、彼女もトレーナーも号泣した。支配人も泣いてしまった。そしてこの話を聞いた私の胸にも熱いものがこみ上げてきた。なんてすばらしいサーバーだろう。彼女は、技術のつたない新人であっても、真心を尽くせばお客様の心を動かせることを教えてくれたのだ。
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ロウリーズの顧客管理システム |
ロウリーズでは、スタッフが自己紹介をした上で、フレンドリーでホスピタリティあふれるサービスを提供する。大切なのは、お客様を必ず名前でお呼びすること。名前で呼べばより親しみやすく、話しやすくなる。
河野総支配人は「CS(顧客満足)からPS(個人満足=パーソナルサティスファクション)へ」と語る。「あなたのための特別なオーダーメイドサービス」を目指しているのだ。
ロウリーズにはシーティングカードという顧客管理システムがあり、集積データは数万件に上る。2年目の大阪店でも、ロイヤルカスタマー(10回以上来店)70人、レギュラーカスタマー(3〜9回)664人、リピーテッドカスタマー(2回)数千人、新規客(1回)数万人というように、データ収集・整理している。
予約時点で、来店回数や利用目的、お客様からのコメント、以前の担当者、好みなどが予約レポートに記入される。これを把握することで個人的なサービスが可能となる。(すばらしい!)
河野総支配人は、ロイヤルカスタマーだけでなくレギュラーカスタマーの50%以上は名前を覚えていて、入口で名前をお呼びしてお迎えできる。500人以上を常連客として認識でき、300人以上は名前も好みも知った上でサービスができるのだ。
また予約客に対してはもちろん、新規客や2〜3回目のお客様に対しても支配人またはマネジャーが挨拶に伺い、個人的サービスの印象付けを図っている。
メールアドレスのデータは6千件。メールマガジンや新商品のフェアなど、定期的にお知らせを送信している。最近では支配人個人のニューズレターも配信。「ビバリーヒルズ本店に勉強に行ってきました」といったメールが届くと、お客様は「ロウリーズの支配人からいつもお便りをもらっている」と親しみを感じ、気軽に予約していただけるようになるのだ。また、どのようなメールに対してどのようなリアクションがあるかというデータも蓄積されている。
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レストランは感動の箱 |
「ほめる」と「叱る」のバランスは7:3。特に女性アルバイトの場合、ほめることで輝く人が多いそうだ。たとえば新人のAさん。フルコースのお客様が食前酒としてシャンパンを注文したので、生ガキをおすすめして喜ばれた。総支配人が翌日の朝礼時、みんなの前でそのことをほめたところ、スタッフ全員がはりきって生ガキをおすすめし、その日以降、毎日完売するようになったのだ。みんな。総支配人にほめてもらいたいのである。
河野総支配人は、新人のミスを始め店舗で起きたことはすべて自分の責任と考え、防ぐ手だてはなかったのか常に自問している。また、選択を迫られることが生じた時、ビバリーヒルズのGM(ゼネラルマネジャー)ならどう判断するかを考えてみるという。スタッフの課題を自分の課題とし、柔軟な姿勢で一緒に乗り越えていくのだ。
あるスタッフが、お客様に飲み物のぶっかけをしてしまった。にもかかわらずそのお客様は再び来店してくれたのだが、あいにくそのスタッフが休みの日だったため、総支配人はすぐに彼女に連絡した。彼女は感激し、「またご来店いただき、本当にありがとうございます」とお礼を述べたそうだ。トラブルさえも感激に変わる。「レストランは感動の箱ですね」と、総支配人はしみじみ語る。
最後に彼はこう締めくくった。「私はお客様に、ロウリーズで過ごすかけがえのない『時間』を買っていただいていると考えています。それをより価値のある幸せな時間にするために、おいしい料理とすばらしいサービス、素敵な音楽や店の雰囲気があるのだと思います」
そうだ、サービスとは愛情のことなのだ。一流のサービスは、店長が従業員を愛し、愛された従業員がお客様を愛するというように、愛情に包まれて生まれるものなのだ。それをあらためて痛感させられる取材だった。
ありがとう、河野総支配人。これからもスタッフを愛し、お客様を愛し、ロウリーズを愛し続けてください。
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