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心配り抜群の実力店長

 王店長は中国で生まれ、師範学校を卒業して小学校教師になったが、日本で経営を勉強したいと考え、日本の大学に留学。卒業後、創業新幹線に入社した。
 取材当日、開口一番「ホームページを拝見しました。たくさんの飲食店事例を読み、とても参考になりました」と言われ、さらに私からの質問事項に答える8ページものレポートを手渡された。これまで150人に及ぶ実力店長たちを取材してきたが、ここまでの対応をした店長は3人しかいない。相手に関心を持ち、取材がスムーズに進むよう心配りができることからも、実力の高さが伺われる。

売上好調、3つの理由

 好調な売上を誇るラーメン春樹。その要因を王店長に尋ねた。
@期待を上回る価値の提供
前述したように麺の量が900gまで増量無料、つけダレの追加もスープもすべて無料。店舗の内装がきれいで、メニューのバラエティーも豊富。お値打ち感が実に大きい。
Aスープと麺の厳しい基準
スープの仕込みからタレの作り方まで厳しい基準がある。筆記試験と実技試験に合格したスタッフにしか麺づくりをさせない。麺は季節や天候によって食感が変わるため、その日の状況に合わせて麺の茹で時間を調整する。
B個別対応&NOと言わない接客
麺の茹で時間は事前にお客様に伝える。常連客には「いつもありりがとうございます」と声をかけ、麺の固さや味の好みも覚える。麺の量も、“普通と大盛りの中間”といったニーズにフレキシブルに対応。できるだけNOと言わない接客を心がけている。

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小さな成功体験でモチベーションアップ

 従業員(社員、P/A)の採用も担当している王店長に、面接のポイントを伺った。
@態度:第一印象(笑顔と愛嬌)がよい
A協調性:共感性があり、チームの和が保てる
B意欲:明確な目標を持っている
 特にBについて「未来に対して明確な目標を持っている人は、仕事の質が高い」と王店長は言う。そういう人は皆「ラーメンの技術と経営のノウハウをこの店から学んで、独立したい」と、明確にビジョンを語るそうだ。
 スタッフとのコミュニケーションにおいて常に心がけているのは、普段の仕事中、店長のほうから積極的に「最近、仕事の調子はどうですか?」「何か困ったことはありませんか?」と声をかけて質問すること。「従業員の心の変化を敏感に察することが大切だと思います」と、王店長は語る。(すばらしい!)
 困っているスタッフを助けられるのは、様々な権限を持つ店長である。店長から「困ったことは?」と絶えず声をかけられれば、スタッフは相談してみようという気になる。このように話しやすい雰囲気を作ることで、定着率はアップしていく。

 よい点があればすぐにほめるのも王店長流。例えば、チラシのポスティングの際には個人別の記号を記入するため、それを持ってお客様が来店すれば、配布した人が分かる。その人をすぐに朝礼で発表してほめ、さらにやる気を促す。いいサービスをしたスタッフの名前がアンケートに書かれた場合も同様だ。
 王店長は、「ありがとう」「助かります」「○○さんのおかげです」と、感謝の気持ちをスタッフに伝えるのも習慣にしている。
 こういった小さな成功体験を見逃さず、確実に評価することで、スタッフの能力が引き出され、高められていく。「一人ひとりの能力を認めることによって、誰もが楽しく働ける環境をつくるのが店長の最大の仕事だと思います」と王店長は言う。(う〜ん、さすがですね!)

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「もう一度チャンスをください」(クレーム対応)

 ラーメン春樹ではオーダーを受ける際、麺の固さ、味の濃さ、油の量をお客様に尋ねる。ある時、親子連れのお客様がお子様のため油の量を少なめに注文したにも関わらず、ホールとキッチンの連携がまずくて多めに出してしまい、クレームが入った。
店長は丁寧にお詫びすると同時に、席でもレジでも「もう一度チャンスをください」と繰り返しお願いし、再来店を促した。
 心配でたまらなかったが、そのお客様は1週間後に再び訪れた。本当にうれしかったという。満面の笑顔でお迎えし、感謝の言葉を伝えたそうだ。以来このお客様は常連となり、今では週2回は来店してくださる。

リーダーの指導と情報の共有化

 3店舗を統括する王店長は、各店のリーダーたちを指導する立場にもある。その際には「ラーメン屋だけどラーメン屋以上の接客を目指す」と言い続けている。そして常に、自ら考えて問題解決していくよう指導している。売上が伸び悩んだら現状分析することを勧める。時間対売上、曜日別売上、客層、競合店状況、提供時間、天候要因、客単価などを分析し、どこが問題なのかを自分で見極め、改善案を考えて実行するよう導いていく。王店長はアドバイスをして見守る役に徹している。
 また王店長は全社員に日報を書かせ、これを全員で共有している。内容は今日の業務、明日の予定、お客様の声、改善提案など。社員一人ひとりが次の一手を考えながら実行していく姿勢が伝わってくる。
 社員教育としては、目標の設定、社内外のセミナーや経営戦略会議への参加、得意分野の研究発表などを促し、経営者意識を高めていくよう指導している。「“わかる”と“できる”は違います。毎日が教育の連続です」と王店長は話す。(スゴイですね)

 夢はラーメン春樹を含め、100店のラーメンチェーンを達成し、経営幹部になること。来月から部長への昇進が決まった。中国人のバイタリティーとハングリー精神を実感させられる取材だった。社長の参謀として活躍する、数年後の姿が目に浮かんできます。ありがとう、王店長!