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3つのスキルを併せ持つ店長

 店長に求められる能力のうち特に重要なのは、店舗オペレーション能力、マネジメント能力、リーダーシップ能力の3つである。大槻店長はこの3つを兼ね備えた店長だ。
@店舗オペレーション能力
キッチン作業やサービスをこなすためのQSCオペレーションを向上させる能力。
※大槻店長の技術力とサービス力の高さは社内でも定評がある。
Aマネジメント能力
顧客満足度を高め、客数を増やし、経費をコントロールして、利益を上げる能力。
※大槻店長はコストコントロール(原価や人件費等の経費管理)に関する社内評価が高い。
Bリーダーシップ能力
刺激や機会を生み出し、メンバーのやる気を盛り立てる能力。人間力ともいえる。
※大槻店長は家族的な雰囲気で店舗を運営。このため渋谷ヒカリエ店の従業員のチームワークは抜群で、定着率も高い。

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救急の対応・配慮は「あたり前のこと」

大槻店長の人間力は、もちろんお客様に対しても常に発揮されている。日々のおもてなしだけでなく、緊急時でもきめこまやかな配慮を忘れない。
 ある日、年輩のご夫婦が来店したのだが、トイレに立ったご主人がなかなか戻らないと、奥様が心配しはじめた。トイレはテナントで共用のため店外にある。店長が急いでトイレに駆けつけると、ご主人は喀血して倒れていた。意識はあるものの、ただごとではない。すぐに救急車を呼んだ。お客様のシャツが汚れていたので、部下に新しいシャツを買いに行かせ、着替えを介助。そして救急車が来るまでずっとそばに付き添った。
 後日、奥様がお礼のため来店。ご主人は肺に穴が空いていたそうで、その後の経過は順調とのこと。店長もスタッフもほっと胸をなでおろした。
 奥様から「本当にありがとうございました」と、謝礼金の入った封筒を手渡されたのだが、店長は「あたり前のことをしただけですから受け取れません」と辞退。ところが奥様は「あんなに親切にしていただいたのに、受け取っていただかなければ私の気持が収まりません」と引かない。やむなくその一部をちょうだいしたという経緯があった。
 その後ご主人は順調に回復し、今ではすっかり元気に。毎月のように来店する常連客となった。
 飲食店では、このような救急の場面に遭遇することも少なくない。読者のみなさんも大槻店長のように、きめ細やかな配慮で対処をしていただきたい。

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月商2800万円、坪売上93万円、その繁盛理由とは?

 渋谷ヒカリエ店の平均月商は2800万円。30坪だから坪売上は93万円にも上る超繁盛店だ。主な客層は20代後半〜30代女性と、50〜60代の女性。後者の場合、仙台で食べたという人が多く、来店の時間帯はおおむね15時〜18時。このため、アイドルタイムでも繁盛している。
 繁盛の背景には、渋谷ヒカリエ内という外的要因に加え、次のような内的要因がある。
1.仙台&利久のブランドイメージ
 牛たんの本場・仙台の中でも利久の知名度は高く、おいしさには定評がある。期待値が高いので、品質やサービスに少しでも不足があれば「仙台とは違う」と指摘されてしまう。「牛たんは仙台の食文化。それを守る上でもクオリティには十分に配慮しています」と大槻店長は語る。
 ささやかな気配りもその一つ。たとえばお客様が年輩であることがわかったら、やわらかめのたんを提供する。常にお客様を見て対応しているのだ。
2.チームワークの醸成(家族的雰囲気)
 店舗運営がスムーズな店に共通するのは、情報伝達がすみやかで確実なことだ。この店でも、朝礼と連絡ノートが有効活用されている。
 朝礼では、売上を始め、お客様からのおほめの言葉やお叱りの言葉、本日の目標や連絡事項などを確認。その後店長は「今日も一日お願いします」と、スタッフ全員と握手を交わす。このようなちょっとしたふれあいによって信頼感が増し、チームワークが高まるのだ。
 「スタッフはみんな同じ釜の飯を食べる仲間。自宅や学校にいる時間よりも、この店で過ごす時間のほうが長い人もいます。家族的で温かい雰囲気をつくることがとても大切だと思っています」と大槻店長。先日もみんなで奥多摩へキャンプに行ったという。面倒見のよい兄貴のような存在の店長だ。
3.常連客との会話
 利久は社員比率が非常に高い。この店にもキッチンに8人、ホールに5人と、13人の社員がいる。商品やサービスの質に対する強いこだわりと誇りをもっているからだ。
 スタッフには、自宅に友人を招く気持ちで、十分な心配りでおもてなしをするよう教育している。常連客や年輩客との会話はかなり多い。
 特に年輩のお客様を大切にするよう指導。年輩客はカウンターではなく、ゆっくり寛げるテーブル席にご案内するよう心がけている。ていねいな対応が気に入って、お友達を何人も連れて再来店する年輩客が多い。

元気のなかったスタッフがやがて中心メンバーに!

 大槻店長は、以下の基準でアルバイトを採用している。
@自然な笑顔
A目を見て話す(アイコンタクト)
B目標が明確
 Bの目標は、アルバイトで得るお金の使い道のこと。学費や旅行など何であってもいいが、目的が明確な人ほど成長すると大槻店長は考えている。
 最近うれしいと思ったことを伺うと、ある女性アルバイトの話をしてくれた。面接に来た大学1年生の彼女はアルバイト未経験。元気がないし人見知りもあるようで、大丈夫だろうかと不安を覚えたものの、人手不足のため採用した。店長や仲間たちが見守り、フォローする中で、彼女はメニューを持ち帰って勉強したり、商品知識や接客用語をコツコツと学んだりしながら、徐々に自信をつけていった。やがてお客様との会話もスムーズになり、今では元気いっぱいで笑顔もすばらしい、渋谷ヒカリエ店の中心メンバーとなるまでに成長した。彼女はこの店で働くことによって性格が変わり、自分の可能性を大きく広げたのだ。「スタッフが成長していく姿を見るのが一番の喜びです」と大槻店長は言う。
 店長の能力の根本は「店に対する愛着心」と「仲間に対する愛情」だと、あらためて思い起こさせてくれた店長だった。
 次のステップへ向けて頑張れ、大槻店長!