画像
売上前年比120%の4要因

 大久保店長が異動したのは今年2月。その月の売上は400万円、3月は550万円、4月が650万円、5月には600万円と、3カ月で150%向上させ、前年比も120%という高いアップ率を果たした。まずはその要因をお聞きした。
1.お迎えとお見送りの徹底
 お客様は店に入って5秒で店の雰囲気をつかむ。心のこもったお迎えの挨拶がとても大切なのだ。そして、感謝の気持ちを込めて店の外までお見送りをすれば、また来たいと思っていただける。この基本的な「迎え3分、送り7分」を徹底させた。
2.お客様に呼ばれないサービス
 ある実力店長は「手を挙げられたら、それはもはや苦情である」とまで言っている。大久保店長も同じ姿勢だ。お客様に言われる前に気づき、すぐ動くことを徹底させた。このきめ細やかさに元気な笑顔が加わればパワー倍増。元気よく「もう一杯、もう一品」とお勧めすることで、客単価が2700円から3100円へと400円もアップした。
3.オープン前に商品の味をチェック
 おでんの味や肉の状態などを確認するため、毎日オープン前に味見をしている。特に焼きとんは鮮度が命。朝入荷したものをその日に使い切るのが基本だ。このため、しっかりと発注コントロールをしている。
4.チームワークと一体感
 異動後まっ先に実践したのが、スタッフとのコミュニケーション。全体ミーティングを毎週行い、「こんな店にしたい」と熱く語り続けることにより、スタッフとの一体感が強まった。御徒町店は気軽に入れるオープンドアの店。店の前を通る人に、全スタッフが「一杯いかがですか」と声掛けできるようになった。

画像
お客様の気持ちになりきる

 大久保店長の店長方針は「どの店よりも心のこもった店づくり」である。自分たちがお客様の気持ちになりきって考えることを徹底。常にどうしたら楽しんでもらえるかを考えて行動することを最重視しており、売上のことは意識していない。目の前にいるお客様に対して、いま何ができるかがいちばん大切だという。売上はその結果なのだ。

御徒町店の“ちょっといい話”

 店長から伺った、御徒町店のちょっといい話を紹介しよう。
1.奈良から訪れる常連客
 8年前から毎年3〜4回、奈良から来店する常連客がいる。芝居見学のため上京する50代のご夫婦だ。事前に大久保店長の携帯に連絡が入り、店長の現在の店舗を確認した上で来店する。
 これには何か特別なきっかけでもあったのかと店長に尋ねると、「心を込めて接客しただけです」との返答。実に謙虚な答えだが、よほど心に沁みる対応だったのだろうと想像する。
 以来、このご夫婦は大久保店長を息子のように可愛がってくださるそうだ。ご夫婦の友人や同僚の方々も「紹介されて来ました」と訪れるという。(飲食店のすばらしさですね!)
2.スタッフの大きな成長
 面接時に目を合わせられない、かなり人見知りの応募者がいた。迷ったものの、仕事をすれば変わるかもしれないと思って採用。案の定、最初は気後れしてしまい全くダメだったが、店長が毎日指導し、本人も一生懸命頑張るうち、自分がお勧めした料理のことをお客様から「おいしかったよ」と言ってもらえるようになった。そのとき飲食店の魅力を実感。自分が人の役に立てることを意識したのだ。その時点でスイッチが入った。それ以来やる気を前面に出すようになり、今では誰よりも元気よく、最高の笑顔で活躍している。
 「スタッフの成長していく姿を見るのが何よりもうれしい」と大久保店長は言う。

画像
チームワークで常連客増加

 御徒町店の強みは「曜日や天候で売上が左右されないこと」だという。「平日でも休日でも大雨でも客数は安定していて、満席状態が多いんです。アメ横が近いという立地条件のよさに加え、常連のお客様から支持をいただいているからでしょう」と店長は語る。
 元気な挨拶、心のこもったお迎えと感謝の念を込めたお見送り、笑顔いっぱいの元気なサービス等々、日々のさまざまな努力が実を結んで、常連客を増やしている。店長とスタッフ、そしてスタッフ同士の信頼関係が築かれていなければ、このような課題に一致団結して取り組むことはできない。
 スタッフのチームワークを高める上で不可欠なのは、一にも二にもコミュニケーションだ。大久保店長は次のような方法でそれを実践している。
@連絡ノートの徹底活用
A毎週の全体ミーティング
B繁盛店の見学(飲み会を兼ねる)
C毎日のスタンドミーティング(全員への声掛け)
D携帯LINEでの情報共有(売上、連絡、改善点、スタッフへの感謝など)

スタッフもお客様!

 取材中、大久保店長はしばしばスタッフに声を掛けていたが、その言葉遣いの丁寧さに驚いた。「スタッフの皆さんに対しても敬語で話されるんですね」と私が言うと、「スタッフもお客様だと思っています」との返事だ。(すばらしい!)
 ザ・リッツ・カールトン・ホテルでは、従業員をインターナルカスタマー(内部顧客)と呼んでいる。通常の顧客と同様に、スタッフに対してもホスピタリティ精神をもって接するという考えである。これと同じことを大久保店長は実践しているのだ。
 ここで、部下が幸せになるためのポイントを挙げておこう。
@部下に微笑む
A部下に礼儀正しく接する
B部下に「ありがとう」と言う
C部下に何でも知らせる
D部下が得意先だと想像する
E部下をほめる
F部下を批判しない
G部下に関心を寄せる
H部下を守る
I部下にとって明朗快活な人になる
J部下のメンターになる
K部下にホスピタリティで接する
(参考・加筆:「人を動かせるマネジャーになれ!」ブライアン・トレイシー著)
 大久保店長はこれらのことを常に考え、行動に移している。スタッフへのホスピタリティ、これがポイントなのだ。
 部下を尊重するマインドを持った、EQ(心の知能指数)の高い店長である。ありがとう、大久保店長!