画像
毎日来客800人、好調の4要因

 取材のため店を訪れたのは午後3時。120席すべて満席で、ウエーティングが10人という繁盛ぶりである。開店以来、事業計画比120%以上の実績で毎日800人前後のお客様が来店しているという。好調の要因をお聞きした。
1.立地のよさ
コンサートやイベントが多く開催されるシビックセンター(文京区役所)内にあり、幅広い客層にひんぱんに利用されている。
2.ていねいなサービス
オープンから日が浅いため、スピードや気配りなどを教育中ではあるが、一人ひとりのお客様に対し、常にていねいなサービスを心がけるよう指導。年輩の方や小さなお子様連れのお客様には、特に配慮している。
3.充実メニュー
季節のデザートやドリンクでティータイムを楽しめるのはもちろん、モーニング(ドリンク、サラダ、トースト、スクランブルエッグまたはソーセージ460円等)から、フードメニューやセットメニューの充実したランチまで、豊富なメニューが揃うため、どの時間帯もたいへん繁盛している。
4.チームワーク良好
 高橋店長の店長方針は、「スタッフが楽しく働けて、お客様に笑顔になっていただける店をつくること」だ。いつもスタッフが気持ちよく働ける環境づくりに努めている。
 指示・命令は全くせず、ていねいな言葉遣いで「どう思いますか?」「お願いします」と質問・依頼をする。店長のこのような姿勢のおかげか、新人スタッフが多い割にはチームワークがよく、スタッフ同士の思いやりもあるという。

画像
採用ポイントは「自分が一緒に働きたいか?」

 オープン時にスタッフ募集をした際、100人以上の応募があった(大学生が大半)。採用は35人。1/3の狭き門である。外食企業への応募状況が非常に厳しい昨今にあって、この応募者数はすばらしい。クリエの応募者には「将来サービス業に従事したいので、接客サービスを学びたい」「おしゃれなカフェで働いてセンスを磨きたい」という積極的な人が多いとのこと。
 採用時のポイントを伺った。
1.自分が一緒に働きたいか?
店長自身がこの人と一緒に働きたいと思えることが重要。これについては第一印象がかなり大きい。その人が店で働いているイメージが湧くかどうかが目安。ちなみにこれは、これは東京ディズニーリゾートの採用基準の一つでもある。
2.自然な笑顔と表情
面接時、応募者は緊張している。できるかぎりフレンドリーに接し、ふだんの話し方へと導いて、自然な笑顔や表情をチェックする。きちんと相手の目を見て話せるかどうかも重要。
3.素直さと協調性
素直さと協調性を持っている人は成長するのが早い。また人と接するのが好きな人は、将来大きく伸びる可能性が高い。

グランドオープンを乗り越えて

 グランドオープンの苦労話を尋ねたところ、「いきなり毎日800人のお客様! 押し寄せるお客様に対応しながら、発注、シフトコントロール、前準備、仕込み…これらを新人スタッフたちと一緒にこなしていくのは本当にたいへんでした」とのこと。(想像がつきますよ!)
 新人教育は24時間。各ポジション(レジ、ドリンク、フード、ディシャー、フロア)ごとに、トレーニングスケジュールとトレーニングの進捗状況をチェックしつつ、実践教育していく。これは実にたいへんな作業だ。
 高橋店長は、グランドオープンを何度も経験して実力をつけていったベテラン店長である。人が成長するのに必要なのは、@座学、A師、B修羅場といわれる。それほど困難であるということだ。高橋店長も、困難を乗り越えることで人間力に磨きをかけていったのだ。

画像
余命6カ月の常連客

 高橋店長には忘れることのできないお客様がいる。前任の神奈川の店舗での話だ。クリエの大好きなおじいさんがいて、毎日のように来店し、店長やスタッフと仲良くなった。そのおじいさんが、末期がんとして余命6カ月を宣告されたという。
 来店しない日が数日続いたりすると、みんな気が気でなかった。だがしばらくするとまた手みやげを持って来店し、「みんなで食べて」と笑顔を見せてくれるのだ。そうやって1年ほど無事に日々が過ぎた。だが奇跡が起きることはなく、おじいさんの顔色は日毎に悪くなり、次第に来店も少なくなっていった。しばらく顔が見られずにみんなが淋しく思っていたある日、おじいさんの妹さんが訪ねてきた。
 心の底では感じていたはずなのに、おじいさんが亡くなったことを妹さんの口から直接聞いて、誰もがショックを受けた。「クリエではいつも親切にしてもらった。自分が死んだら真っ先にクリエの皆さんにお礼に行ってくれ。くれぐれも頼んだぞ」と、生前から言われていたそうだ。妹さんが抱えていたのは、おじいさんの来店スタイルと同じ、みんなへの手みやげだった。高橋店長はもちろん、親しかったスタッフはみんな、涙をこらえることができなかった。
 その後、地元在住のスタッフがおじいさんの住まいに見当をつけてお墓を探し、やっと見つけることができた。お墓をお参りした店長とスタッフは、墓石の前でおじいさんが大好きだったアメリカンコーヒーを手向け、冥福をお祈りしたのである。
 飲食店にはいろいろなドラマがある。おじいさんにとってカフェ・ド・クリエがかけがえのない場所であったように、高橋店長にとっても、おじいさんとの出会いと別れは最も忘れがたい思い出となった。(私の胸も強く揺さぶられました)

画像
期待値が人を創る(ピグマリオン効果)

 カフェ・ド・クリエには、スタッフをほめる「クリエスター」というシステムがある。お客様が「輝いているスタッフ」をアンケートハガキで投票し、それが複数集まれば本社で表彰され、バッジがもらえる。クリエスターに選ばれると新店のトレーニングも任されるという、優れた仕組みだ。
 高橋店長に、スタッフ教育の方針を伺った。「発注の仕事、モーニング時間帯の作業、クローズ作業というように、仕事を順次教えていき、覚えたらどんどん任せていきます。信頼して任せることが大切だと思います」との答えだ。任されたスタッフは信頼されていると実感し、自分で判断する力を磨き、店長への報告もしっかり行うという。(いいですね!)
 「期待値が人を創る」(ピグマリオン効果)という心理的行動がある。人は相手の期待に対して最も敏感に反応するといわれ、その人を信頼して期待すれば、相手はそれに応えるような行動をとる。高橋店長が実践しているのは、まさにこれである。

 最後に、今後の目標をお聞きした。「オープン後2カ月経過し、オペレーションも安定しつつあるのがとても嬉しい! この店をもっともっと地域のお客様に愛される店にしたい。“いっぱいのしあわせ”を感じていただける店にしていきたいと思います」と語ってくれた。
 感動的な話をありがとう。これからもスタッフの皆さんと一緒に「いっぱいのしあわせ」をつくり続けてください!