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第57回 レストランOGINO オーナーシェフ・荻野伸也氏

東京・池尻大橋の路地裏にありながら、いま最も予約の取れないフレンチのひとつとしてとして知られる「レストランOGINO」。オーナーシェフの荻野伸也氏は、ジビエに特化した独特のメニューづくりや、「お好きなだけパテ・ド・カンパーニュ」といったインパクトのある看板商品で話題を集め、口コミで人気を拡大。生産余剰で破棄されてきた食材活用にも積極的に力を入れており、それらの食材を使った総菜販売店も展開している。

プロフィール

1978年愛知県生まれ。大阪 辻調理師学校、同フランス校で学んだ後、地元・愛知のフレンチレストランへ就職。その後、代々木「レストラン キノシタ」で2002年よりスーシェフを務めた後、2005年、目黒「キャスクルート」でシェフに就任。2007年に独立して「レストランOGINO」を出店。2009年に現在の池尻大橋に移転オープン。惣菜販売の店舗展開も進め、2011年には札幌「ヴィヴルアンサンブル」、2012年には代官山「ターブルOGINO」を出店。2012年12月には品川エキュート内にも出店。

リンク

http://french-ogino.com/

荻野伸也氏 住所/東京都世田谷区池尻2-20-9
電話番号/03-5481-1333
営業時間/11:30〜13:30 LO(ランチは金曜、土曜、日曜、祝日のみ)
     17:30〜23:30 LO(日曜、祝日は〜21:30 LO)
定休日/月曜日
居抜き物件を探し、路地裏でひっそりと開業
レストランOGINO
僕がフレンチシェフを目指したきかっけはとてもミーハーです(笑)。中高生ぐらいにTV番組「料理の鉄人」を見て、「格好いい!」と思って、調理人になることを決めました。そして当時、“イタ飯”ブームだったこともあり、最初はイタリアン・シェフを目指しました。しかし調理師学校に入ってフレンチに初めて触れ、「これはすごい!」と感銘を受けてフレンチの道に進んだのです。

その後、19歳で最初の店に入った後、とにかくもっと忙しいところで働きたいと、数軒のフレンチでの勤務しました。4年半ほどいた代々木「レストラン キノシタ」では、ランチと夜、それぞれ2回転で、1日100人以上の食事を作っていました。ここでかなり鍛えられましたね。

2007年に独立したのですが、お金をかけられないので居抜き物件を探しました。やっと見つかったのが、細い道を抜けた駅から徒歩10分ぐらいの場所で、みんなからはさんざん「この場所ではやめろ」と言われました。でも僕は、「ここでとんがったことをやれば、お客さんが来てくれる」と考えたのです。

レストランOGINO2
人口の多い東京ならば、100人中99人がダメでも、1人の熱心なファンがいるようなニッチな業態が成り立ちます。またそうでないと、店が多いので埋もれてしまうのです。そこで僕は得意だったジビエにこだわり、20席ぐらいの店で、10種類以上のジビエを揃えました。

オープン後4ヶ月ぐらいは、ほとんどお客さんが来なくて、クリスマスもお客は実兄のみ。3日連続でお客さんが来なかったこともありました。でも雑誌の紹介がきっかけになり、ジビエ好きのマニアックな方などを筆頭に、少しずつ口コミで来て頂けるようになったのです。
“スローなファーストフード”=パテ惣菜で日本の食卓を変える!
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僕はもともとパテやテリーヌが大好きでした。原価的にもそれほど高くないものなので、宣伝も兼ねて大きなオバール型で焼き、食べ放題で出してみたらどうだろうと考えたのです。

開業前にフランスを廻って各地のパテを食べまくり、色々なレシピを集めた上で、バランスを考えてメニュー開発しました。そして好きなだけとって食べて下さいという意味で「お好きなだけパテ・ド・カンパーニュ」という商品名で提供したところ、お客様から好評をいただき、看板メニューになったのです。

その後、パテやテリーヌのテイクアウト販売を始めたのは、お客様からのご要望がきっかけでした。「お土産に持って帰りたい」というリクエストに応えているうちに、衛生面からも施設を調えなければということになりました。そこで元の店舗をパテ製造専用の工場にして、もうちょっと広い場所に店舗を移転したのです。

いま考えればこれが大きな転機でしたね。その後、通販を開始し、2011年、札幌に惣菜販売とイートインの店「ヴィヴルアンサンブル」を、2012年には代官山「ターブルOGINO」という惣菜店を出店。2012年12月には、品川エキュート内にも惣菜店を出店。

惣菜店では「スローなファーストフード」をコンセプトに掲げています。日本では、食料自給率が低いといいながら、規格外の野菜や畑を荒らす鹿、育ちすぎた豚など、様々な食材が何十万トンも捨てられています。これらは、見た目が悪かったり、食べ方が分からなかったりするだけで、カレーやテリーヌ、ソーセージなどに加工すれば、問題なくおいしく食べられる素材です。

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そこで、僕の持っているフレンチの技術を駆使して惣菜にし、販売しようと考えたのです。生産者の人たちも助かりますし、僕たちも国産の良質の素材を割安に入手できる。お客さんもおいしいものを手頃に楽しめます。

また、ドイツのソーセージやハムは、日本の一般家庭にしっかり浸透しています。でも同じようなポジションにあるフレンチのテリーヌやパテは、まったく身近なものになっていません。これを惣菜というかたちで気軽に食卓へ取り入れてもらうことが、フレンチのすそ野を広げることにもつながるはずです。そう信じているのです。
チャラいのも、実はセルフ・プロデュースの一環
調理師学校の講習会などに呼ばれたとき、僕は毎回「料理だけ勉強しても、何の役にも立たないよ」と生徒さんたちにお伝えしています。料理の勉強はもちろん大事ですが、オーナーシェフの仕事は、営業や企画、スタッフ教育など、ほとんどが雑用。料理のことを考えることができるのは、一日のうちでほんの少しなのです。その他のこともいろいろとできないと、独立することは難しいと思います。

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さらに、独立したとしても、極端なことをやらないと、いまの時代では数多くあるお店の中に埋もれてしまいます。プラスαで、他の人とどんな特徴の違いが打ち出せるのか。そこを考えられる人間になることが大事なのです。

お客様に親近感を持ってもらおうと、僕はあえて"チャラい"格好をしています。実はこれもセルフ・プロデュースの一環なんです。格式高いイメージのフレンチでも、こんなチャラい感じだともっと身近に感じてもらえると感じるからです。今後も幅広く活躍していけるようにがんばりたいです。