1974年、埼玉生まれ。エコール・辻・東京卒業後、渡仏。1994年よりル・ヴィヴァレ(リヨン)のロベルト・デュフォーに師事する。帰国後は、1995年よりタイユバン・ロブション、ロオジエ等を経て、2006年より「料理とワインのマリアージュに魅せられ」仲田氏が経営するレストラン・アルバスへ。現在、総料理長として腕をふるう。
 

オーナーの仲田勝男氏は、『アピシウス』の元シェフソムリエ。一流グランメゾンで培った長年の経験をこの店に集約し、美味しさを追求している。月替わりのメニューは、コース1本とアラカルトが数品。選択肢を絞り込むことでブラッシュアップされた料理は、極めて高い完成度で供される。

中央区銀座6-7-6 銀座細野ビル3F

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  レストラン「アルバス」は、有名レストラン「アピシウス」で20年間シェフソムリエを勤められた仲田氏が思いの丈を込めて作ったフレンチレストランです。“ワインと料理の最高のマリアージュ”をお客様にご提案することを目的に、コース料理は一種類だけを用意。一皿一皿、料理に合うワインを約500種類の中から選び、ソムリエとの会話も楽しめる店です。
  店内に足を踏み入れると、まず天井まで続くワイングラスの棚が目に入ります。これも仲田オーナーのワインに対する想いの表れのひとつです。普段は物静かで穏やかな仲田氏ではありますが、内にはソムリエとしての情熱を秘めているのです。日本を代表する凄腕ソムリエと一緒に働ける私は、本当に幸せ者だと思っています。
  さて、ワインについてはご来店いただいてからのお楽しみとしておきまして、私の方から当店の料理についてご説明しましょう。どの店もそうだと思いますが、料理をたった一言で表現するのは非常に難しいもの。でもあえて表現するなら、“洗練された伝統的フレンチ”と申し上げましょう。
  料理とワインのマリアージュを楽しむのが当店の真骨頂なので、味の相性はもちろんのこと、スパイスやハーブなどのフレーバーもとても大切にしています。料理を装飾的に複雑化せず、基本に伝統がしっかり感じられる料理を提供しています。その方が、ワインの楽しみにも幅が出てくるからです。例えば魚料理なら、魚をシンプルにポワレする、という伝統的一品も提供します。昔の私は料理のことしか頭になかったけれど、「アルバス」に来てからはワインをイメージしながら料理するようになりました。
  もともと私は20歳前後で、フランス・リヨンのビストロで修行しました。温暖な気候で過ごしやすく、ゆったりとした時間が流れる街・リヨンは、クラシックと現代要素が共存する魅力的な街です。料理も、伝統を踏襲しながらも新しい現代的なエッセンスを加えるというスタイルが多く見られました。リヨンで学んだ料理が、今も生かされているのかもしれません。
  フランスから帰国後は、東京・恵比寿の「タイユバン ロブション」で修行しました。最初の1年半ぐらいは雑用で終わりましたが、次第にステップアップしていき、約5年半の間に運よくすべてのポジションを経験することができました。毎日誰かしら辞めていくという非常に厳しい現場で、朝5時から深夜1時まで働いていました。高校時代、ラグビー部で鍛えた忍耐力がきっとこの時にうまく生かされたのでしょう。

  「ロブション」では料理の繊細さについて深く学んだような気がします。驚くほどの美麗、ときめくファーストインプレッション、そして芳醇なフレーバー…など、“細部に神は宿る”とはいいますが、まさに神がかった世界でしたね。
  中でも一番思い出に残った出来事が、ロブション氏本人に呼び出されたことです。ご想像の通り、彼は1ミリの狂いも見逃さない千里眼で、キッチンを見渡すカリスマ・シェフ。当時は年に数回は来日していましたが、そのたびごとにキッチンでは息をするのもためらわれるほど空気がはりつめ、当時22歳の私にとっては生きた心地がしませんでした。
  ところがあろうことか、ロブション氏が私の作ったソース(確か鶏のジュレでした)を見てこう言ったのです。「誰だ、このソースを作ったのは」と。血相を変えてスタッフが私を呼びにやってきて、私は血の気がひいていくのを感じながら、彼の元へ急ぎました。当然、キッチンにいるすべての人間の目線が私に向けられていました。
  “雲の上の人”を間近にとらえると、私の顔はみるみるうちに青冷めていきました。そんな私を彼は厳しい目つきでじっと見据え、一歩前に踏み出しました。「もう、おしまいだ…!」。そう思った次の瞬間、彼は私の肩にそっと手を触れ、静かに「ボン ソース」と漏らしました。ボン、つまりGOOD…。周囲から吐き出される安堵の息の音だけが耳に入ってきました。
  過度の緊張のせいで、ほめられたのかどうかの状況判断も瞬時にできなかった私ですが、怒られたのではないことだけはわかりました。その後のことはあまり覚えていません(笑)。ロブション氏にお礼でも言ったのだったか、頭を下げたのか、笑顔だったのか…それとも。   思いがけない言葉に魂を抜かれた状態となった私は、しばらくたってからその出来事をきちんと理解しました。これまでの苦労が報われた満足感と手ごたえが、嬉しいボディーブローとなって数時間後に私に襲いかかってきました。
  その後、「ロオジエ」などを経て、「アルバス」に移りました。「アルバス」では、小さな店だからこそお客様の反応がダイレクトに伝わってきます。目の届く範囲だからこそきめ細やかな接客もできるし、ワインの会話も存分に楽しめる。まだまだワインについては勉強中ですが、料理とワイン、人と人、料理と空間、店と時間…、たくさんの素敵なマリアージュを提案し続けたいです。
  個人的な夢としては、将来、お客さんみんなが自分の身内のようにワイワイ仲良く楽しめるカジュアルなビストロを持ってみたいですね、最終的な目標、ですけどね。