基本の徹底とワンカンバセーション

店舗目標はロッテリアの方針通り、基本の徹底(QCST)だ。

Q(クオリティ)はつねにつくり立てが基準。C(クレンリネス)は、汚れているところを見逃さず「汚れている」と言える感性を持つことが重要。S(サービス)はお客様に対し積極的にワンカンバセーション。そしてT(タイム)は提供時間以内(バーガー・ドリンク・サイドの3点)が基準。だがスピードよりも品質を追求したいと馬場崎店長は言う。

サービスのワンカンバセーションについて、店長に具体的に説明していただいた。これは「笑顔で一言会話をする」という意味。たとえば顔なじみのモーニング客には、20〜30秒のオペレーションの最中に「今日はお早いですね」とか「セットは野菜ジュースでしたね」というように、すすんで笑顔で話しかける。これが固定客づくりにつながっている。店長以上にお客様のことを知っているメイト(アルバイト)も多いというから頼もしい。馬場崎店長にとっては、こういうことが一番うれしいのだ。

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「あ、ハイ」がダメな理由

メイトの採用率は30%程度。この厳しさは実力店長に共通している。馬場崎店長は「第一印象で決めます」と言う。雰囲気や歩き方にもそれは表れる。最近、どうぞこちらへと案内したりすると、「あ、はい」と応える人が増えているそうだ。「そういう人は採用しません」と店長。この「あ」が問題なのだ。「はい」とはっきり言えない人は、スピードやテンポの面で問題を抱えやすい。「素頭が良い」という言葉がある。素直で反応が良くて、エネルギッシュな人を指す。素頭の良い人を見抜いて採用するのも店長の実力だ。

馬場崎店長は、面接が終わって見送る時も、応募者の姿勢に注意しているそうだ。出口で改めてきちんとこちらと向き合い、「よろしくお願いします」と挨拶ができない人は、やはり不採用と決めている。去り際の態度に、相手に対する敬意や思いやりの心が伺える人を採用したいものだ。

採用後は全員ホールでの客席係を任され、誰のためのロッテリアかという意識教育が徹底される(挨拶、おじぎ、発声練習)。その後、男性はキッチン、女性はカウンターでのトレーニングを受ける。ランクアップは、ビギナー→レギュラー→プロフェッショナル→ホープ・バイスマネジャーの順に、段階的な昇格システムが設けられている。

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指示・命令型からコーチング型の店長へ

馬場崎店長には、最近うれしい出来事があった。部下社員のマネジャーが、お客様にたいへん喜ばれる活躍をしたのだ。

二人組の女性客がお酒の酔いを醒ますためにドリンクを注文したのだが、そのうちの一人は酔いつぶれて動けなくなってしまった。そこでマネジャーはすぐにタクシーを呼び、動けない女性を抱き上げてタクシーに乗せ、自宅まで送るよう一切の段取りした。翌日そのお客様は、お礼のためワインを持って来店したという。このとき対応したのは馬場崎店長だったのだが、部下がお客様のために親切にすみやかに、自分で考えて行動してくれたことが、本当にうれしかったそうだ。

「店長の指示だけで動いている店は、これからは厳しいでしょう」と馬場崎店長は語る。それでは多様化するお客様のニーズに対して良いサービスはできないし、従業員の自主性も育たないからだ。馬場崎店長はメイトにサービスの手法や考え方は教えるが、ああしろ、こうしろとは命令しない。彼はメイトのそばでこんなことをつぶやく。「最近なんとなく活気がないよね」…そしてこんなふうに声をかける。「今のままで、お客さんはまた来たいと思うかなあ?」するとメイトは「来ないかもしれません」と答える。「じゃ、どうすればいいと思う?」と続けて尋ねる。メイトは「ハイ、もっと笑顔を心がけて、元気に接客してみます」と、自分なりに考えて答え、行動するようになるのだ。

馬場崎店長は、人のやる気や能力を引き出すためのコミュニケーション技術である「コーチング」を身につけている。部下に考えさせ、自発的な行動を促す。これが指示・命令型上司との明確な違いだ。

手の空いた時間などに、馬場崎店長はメイトと対話する。目標を与えるため、数字を出すことも多い。「さあ、今のオペレーションは百点満点中何点?」「70点です」「80点に足りないのは何?」…こうやって考えさせるのだ。時には「80点に上げるために君が何をしたいのか、あんまり伝わって来ないなあ」などと一歩踏み込んで、より深く考えさせたりもするそうだ。すばらしい!

コーチング型上司のお手本のような馬場崎店長も、店長になりたての20代の頃は、ただ命令するだけの店長だった。10年以上の経験を経て、部下の個性を伸ばすのに命令だけでは限界があると痛感し、マネジメントが変化してきたのだ。

また、人間にはメンタル面で調子の悪い時がある。そういう場合は入店時に、今日は元気がないと報告してほしいと指導。そうすれば周りがフォローできるからだ。黙っていて何かミスをすれば、お客様に迷惑がかかる。「みんなで助け合うのがチームワークなんだよ!」と語る店長。いい言葉ですね。

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いい人・できる人・できた人

馬場崎店長は日頃から「いい人」と言われないようにしている。仕事上では、いい人は単なるいい人で、個性や魅力に乏しく、どこか頼りないイメージがあるからだ。「“アクは強いができる人”と言われたいですね」と馬場崎店長。仕事ができる人、マネジメントができる人、という意味である。

「できた人」という言葉もある。人間的魅力がある人、EQが高い人のことだ。「できる人」と「できた人」、これらを兼ね備えた人を「一流」と呼ぶのだと私は考える。

馬場崎は店長として、誇りを持って仕事に臨んでいる。店長の上位にはFI(フィールドインストラクター)という職位がある。1年ほど前より本部からこの職位に就いてほしいとの強い要請があるのだが、彼は断り続けている。お店が好きで、現場が好きで、店長を極めたいという想いがあるからだ。

絶品チーズバーガーで絶好調の新生ロッテリアに、大人のコーチング店長がいた!

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