熊本県熊本市出身。建築会社で現場監督からスタートした異彩の持ち主。20歳で串料理店、その後神戸でモスバーガー3店舗の経営を始める。1995年、阪神淡路大震災で被災。飲食店経営の窮状を凌ぐために、勤怠管理ソフトウェア販売のキズナジャパン株式会社を設立した。飲食店経営の時代からユニークな発想でアイデアマンとして知られる。

  アルバイトで貯めたお金で大型バイクを買い、いつも乗り回していましたね。交通事故を起こしたこともありましたし…。学校は熊本の工業高校でしたが卒業できたのはある意味奇跡です。
  卒業後は大阪の建築会社に就職し、そこで現場監督をやりました。現場監督というと格好は良いのですが、要は大工さんのお手伝いです。雑用と小間使いばかり。上棟式で「あの鉄骨の上を登ってこい」と言われるわけです。高いところが怖くて「俺には向いてない」と思っていた頃、知り合いから「小さい居酒屋があるからやらない?」と誘われました。何も考えずに「すぐやる」と即答したのがちょうど20歳のときです。

  おかしな話ですよね。ひどいもので料理もできない、ご飯さえも炊けない店長でした。お客さんの見えないところで板前さんに下駄で足を踏まれたり、包丁の峰で手の甲をパンと叩かれたり、いつもしかられていました。
  開業して二カ月、売り上げは月10万円にも満たない。オーナーも諦め加減で廃業も考えていたみたいですが、「内装に使った金は自分が払うから、続けさせてくれ」と頼み込んだのです。こうしてオーナーの借金300万円を背負って、自分の店として再出発したわけです。
  料理ができないので最初は串カツと焼きとりだけのメニューです。お客は相変わらず来ない。家賃を9カ月間溜めて電気もガスも止められた時は、運送会社の運転手になるしかないと覚悟を決めました。しかし、採用面接で見事落され、もう開き直って徹底的に「やるしかないな」と思い、お店を朝まで開いたんです。
  ちょうどインベーダーゲームが流行り始めた頃で、スナックのお姉さんたちが夜中にゲームセンターに向かう途中でお茶漬けを食べに店に寄ってくれました。それから彼女たちが呼び水となって、夜中の12時過ぎから明け方頃までが店の来店ピークになりました。

  ところが、それ以外の時間は閑古鳥が相変わらず鳴いていましたね。お店に「年中無休。朝までやってます」と張り出して、二年間本当に一日も休まずやりました。風邪を引いて奥で座り込んでいると、代わりにお客さんが厨房の中で料理を作ってくれたり、夜中私一人で手が回らないと、スナックのお姉さんが自分でビールを抜いたり、お酒の燗をつけたりしてくれました。しばらくすると、だんだんお姉さんを目当てに近くのお兄さんたちが集まって来ました。お客さんも増えて25歳の時には300万円の借金を完済できました。
  ちょうどこの頃結婚し、子どもが生まれたのです。朝まで店を開き、そのまま市場へ買い出しに行って、朝10時に寝る。そんな昼夜逆転した生活ではあまりにも子供がかわいそうだと思うようになり、店をやめようと決心したのです。
  ただお店の売上げは順調。業態も居酒屋に変えました。30歳までに600万円貯めようという目標でしたが、これもクリア。貯金額はいつの間にか6000万円にまで膨らんでいました。そして30歳を迎えたある日、私に転機が訪れました。

   たまたま子どもとモスバーガーにライスバーガーを買いに行ったところ、「これだ」とひらめいたのです。すぐフランチャイズ加盟の申し込みをしましたね。一年間の研修と加入審査の後に、どうにか加盟することができました。ちょうど31歳の誕生日でした。居酒屋をやめたときに6000万円の貯金がありましたので、それを元手に始めました。
  モスバーガーはフランチャイズチェーンで、本部が儲かるシステムになっています。パンフレットには、月平均売り上げ600万円、オーナーさんの手取りはその10%から15%、金額で60万から90万円と書かれていました。「これは儲かる」と思って始めたわけです。ところが実際始めると、オープン当初は慣れないから原価ロスが多い。原価率は売り上げの40%、人件費は20%といわれていましたが、実際は原価率45%、人件費も25%を超えてしまう。そうなるとほとんど利益がありません。仕方なくオーナー自ら朝から晩まで店に入る。それでも追いつかないので、妻を引っ張りだして働いてもらうことになります。

  人件費は毎月20%の目標なのに月末に集計すると25%。月末に気がついても遅いのです。このどんぶり勘定をなんとかしようと思い、作ったソフトがあります。その名も「楽々繁盛」。15年ぐらい前にDOSという言語でつくりました。月末にしか従業員の勤務実績が分からないタイムレコーダーでは困ります。デイリーで勤務実績が分かるタイムレコーダーをつくろうと、仲間でお金を出し合って会社を設立しました。そこで開発を始め、私たち経営者の意見もどんどん入れていきました。最初はまったく売るつもりはなくて仲間内だけで使っていました。
  このソフトを使いますと、パートやアルバイトさんの毎日の勤務時間の予定と実績が一目で把握できます。データをとるうちに人件費が膨らむ理由がわかりました。うちの店の例ですが、日曜日なのに全員残業する。夕方四時にあがらなくてはいけないパートがいても、店長はその人たちに「早く上がってくださいね」と声をかけずに黙っているのです。経営者でしたら必ず声をかけます。たとえば、洗い物をしているパートさんは責任感がありますから、声をかけられなければ仕事が終わるまで絶対に帰らない。そのうち慣れっこになって一時間残業して帰る。18人が働いていれば1日で18時間の過勤です。時給1000円でしたら18000円の損失になるわけです。これが人件費25%になってしまう原因だったのです。
  私は兵庫県西宮市と芦屋市と神戸市中央区で三店舗経営していましたが、「楽々繁盛」のソフトのお蔭でいたって経営は順調でした。すべてがうまく回り始めたかのように思えたとき、運命の出来事が起こりました。
(次回へ続く)