寺久保進一朗
昭和14年生まれ。17歳の時には18代目として、父親の後を継いで店に入るようになる。永く続いている伝統を守りつつ、時代の変化と共に、経営方法にも工夫を凝らし、現在では販売だけではなく、包丁研ぎ教室・料理教室なども行っており、有次を成長させている。


  まず百貨店に店舗を出した理由ですが、それは人のご縁で出させていただきました。
昭和44年に百貨店の中の催し物として「京の味ご馳走展」というのをやることになりまして、その時に料理組合の関係で何か売ってくれと言われたのがきっかけです。
  そこで鍋や庖丁を売ったんですが、結構売れたんですね。そしたら百貨店側から、常時でお店を構えて欲しいと依頼があったんです。それで協賛という形で出させていただきました。

  また料理教室ですが、27年前に錦の店がオープンした時に、2Fが空いたから倉庫にしようか展示スペースにしようかいろいろ迷ったんです。でも錦に一人でも多くの方に足を運んでもらおうと考えて始めました。現在では、料理教室・魚のおろし方教室・木彫教室・庖丁研ぎの教室を行っています。(お申し込み等、詳細は有次までお問い合わせ下さい)
  こういう事で、少しでも錦への感謝を表し、地域貢献ができたらと考えています。


aritsugu1  それは見る角度によると思います。うちの場合は、技術を学びたいといって来る方ばかりです。でもそれはうちだけでは無く、技術を継承するための人材はいると考えています。実際はその受け皿が無いのだと思います。うちは新しく入ってきた方は1、2年は遊ばす気でいます。というのは、技術は5年でそこそこ。10年で何でも作れる。15年でやっと儲かるようになる。と考えているんです。しかし、お店や企業にそのような余裕が無いと無理ですよね。うちの場合はおかげさまで、ちゃんと商売ができているから教育もしっかりできるんです。
  そうすると、それを見た者、聞いた者、感じた者が自分もそんなのをやりたいと集まる。そのために環境を良くしたり、工場を良くしたりしています。実は昔からそういう事をやっていたんです。だから有次の目から見れば、決して職人が減っていることはありません。

  またうちでは30代くらいまでの若い職人に、伸び伸びと仕事をしてもらうために「若者の会」というのをやってもらっています。これは私は「カネは出すけど口は出さん」という考えですね(笑)社長はノータッチなんです。堅苦しい勉強会では無く、若い者だけで飲んだり食べたりしながらコミュニケーションを深めてもらう事が目的です。働く場所がそれぞれ離れているので、お互いいろいろな事を感じ合ってもらっています。

  ベテランの職人に対しても私自身が相談がてら話に行ったりします。もちろん真面目に仕事の話もしますが、他にもいろんな話をします。例えば、歌舞伎の話をうだうだと話したりですね(笑)でもそういう時間も大切だと思っています。毎日まっくろになって黙々とやっているので、コミュニケーションの場が必要なんです。それが私の努めですね。いろいろ回って職人や職人の嫁さんに話かけます。17歳から商売をやっているから、自然にそういう事が出来るようになっていましたね。職人の作品(有次では商品とは言いません)があるからお客様に喜んでもらえて、有次も忙しく仕事ができ、さらに若い社員を入れる事ができる。だから職人さんが喜ぶことが誇りに繋がっているんです。

→次回(道具に対する考え・料理人と道具の関係)に続く