寺久保進一朗
昭和14年生まれ。17歳の時には18代目として、父親の後を継いで店に入るようになる。永く続いている伝統を守りつつ、時代の変化と共に、経営方法にも工夫を凝らし、現在では販売だけではなく、包丁研ぎ教室・料理教室なども行っており、有次を成長させている。


  その刃物が良く切れるかどうかは、誰でも使ってみればわかります。切れ味が良い刃物というのは使いやすさに繋がります。その使いやすいものを長く使っていただくために、私たちは研ぎを大切にし、何十年も使っていただけるものを提供しているんです。
  2、3年経つとその庖丁の良さがわかります。そうすると離れられなくなるんですね。そして30年後にまた来てくれます。そして、その他にもその周りの人や次の世代の方などが足を運んでいただけるようになります。目の前の事だけを考えていては、このように長い間多くの方に使っていただける事はなかったと思います。

  私はいい物を長く使った方がいいと思いますし、いい物を安心して食べた方がいいと考えます。しかも、好きな人であったり、自分の子供であったり、敬う方であったり、愛する人のために自分で料理するのが一番だと思います。
  いい道具で食材を大事に使えば、無駄無く調理できます。ゴミの量が全然変わるんですよ。今は祖母、祖父と一緒に住んでいないから知恵が伝わっていないんですかねぇ。とにかく時間も含め、無駄が多いと思うんです。

  私の場合は、無駄の無い正しい生活をするために、五正の法(眼・排・食・心・姿)というのが、いつも心の中にあります。この5つの事をいかに正しく行えるかという事です。これは仕事の態度でも同じですね。例えば庖丁を研ぐ時に、庖丁に対しての感謝の気持ちを大切にしているかなどです。そういう姿勢で行っていれば、必ず物を大切にするようになります。


aritsugu1  いい料理人がいい道具を使ってるというのは、庖丁の場合はあんまり関係無いですね。ただ先輩になってくるといい格好したくなるから、いい物を買いにくるのは確かです。でも、いかにそれを使いこなすかが大切なんです。
  だから私の場合は新米には「まだこんな道具は早い。まずはこれで1年辛抱して、それでそこそこになってから、どの庖丁がいいか教えるから、また来なさい」と言ったりします。

  庖丁には研ぐという技術が付いてきます。これは簡単な事では無いんです。だから、まだ研ぐ技術が未熟なのに高い庖丁を使ってしまうと、早く減ってしまい、無駄にしてしまう事があるんです。
  庖丁を研ぐというのは感謝の思いで研ぎ、正しい姿勢で研ぐ。そうすると、この庖丁があなたの腕を上げてくれる事になるんです。

  我々の社員のレベルももっと向上させて、業界全体の意識を変えて、みんながお客様の将来ために親身になって考えて、お客様と接する事が出来るようにしたいですね。

 外国では刃物がダメになったら、庭の雑草を切る道具として使い、それもダメになったら捨ててしまいます。しかし我々は庖丁供養という儀式をして、火に焼べて、鉄くずにします。
 これは庖丁供養することで道具に感謝しているんです。これは日本の文化だけど、外国にも浸透すれば、もっと地球全体で物を大切にする事になり、道具を大事にするということは人も大事にする事に繋がると思うんです。

次回(料理人に対してのメッセージ・寺久保社長の夢)に続く