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第907回 株式会社カオカオカオ 代表取締役 新井勇佑氏
update 22/00/00
株式会社カオカオカオ
新井勇佑氏
株式会社カオカオカオ 代表取締役 新井勇佑氏
生年月日 1984年1月28日
プロフィール 大学時代から臨床心理学を専攻していたが、一転、職人の世界を志し、飲食の世界に入る。就職した先で、天才的な経営者と出会い刺激を受ける。また、研修で出かけたタイで、宮廷料理ではない、一般的なタイ料理にハマり、「タイカルチャー」を日本に広めるというビジョンのもと、「タイ料理×居酒屋」をコンセプトにした、「タイ屋台999」をオープンする。
主な業態 「タイ屋台999」
企業HP https://www.thailand999.com/

あこがれは、ドクター。

学生時代は頭がいい方だと言われていたらしい。もちろん、成績はオール5。女の子にも人気だった。好きな子が同時期に5人いた時もあったが、それぞれの好みに合わせた男子を演じていたらしい。恋も戦略で成就させる、そんな幼少期。
父親は高校時代、全国の建築コンクールで3位に入賞。大手建設会社からのオファーを受け、以来、そちらで建築畑を歩まれている。そんなエリートの父親だが、父親から「勉強しろ」と言われたことがないらしい。むしろ、好奇心を持ったものには、自由に取り組ませてくれたそう。
ユニークな話が一つ。
「ふつう子どもがつくるといったら、プラモデルだと思うんです。でも、あれはパーツをくっつけるだけ。うちの場合は、五重塔なら、塔を設計するところからスタートするんです」。
なるほど、建築家の教育はちがう。
新井氏は自身の人間形成に、父親の教育がもっとも影響しているという。
新井氏が生まれたのは、1984年。池尻大橋に生まれ、3歳で町田へ引っ越している。小学校は地元の公立小学校だが、中・高は、「攻玉社」に進んでいる。
「ぼくから言い出したんです。受験させて欲しいと」。
「攻玉社」といえば、150年以上もつづく、有名な進学校。卒業生は総理大臣から学者、宇宙飛行士まで、多士済々。むろん、受験は新井少年にとっても高いハードル。
どうして、険しい道を選択したんだろうか?
「小学2年生の時に盲腸になります。体質的に麻酔が効かないなかでの手術だったんですが、その痛みより、手術をしてくれたドクターがカッコよくて。それで、ぼくも、あんな人になりたいと思います」。
それで、選んだのが「攻玉社」?
「そうです。医学部志望の生徒もたくさんいますし、東大は当然。それ以下は、負け組という学校です。ただ、この学校も、父親といっしょで勉強しろとは言わない(笑)」。
記憶にあるのは、20キロの遠泳や、30キロのマラソンなど。マラソンでは先生の目を潜り抜け、タクシーで快走していたそうだ。

臨床心理学と、飲食。

「最初は、いいほうだったんですが、だんだん成績が下がり、最後は下からうん番目。もちろん、めざすのは医学部です。ただ、不合格。かなり高いカベを知りました。でも、白衣は着たい(笑)」
それで臨床心理学ですか?
「そうです。『臨床心理学』という比較的新しい分野に挑戦します。おなじやるなら、大学のブランドをすて、トップになれる大学に進みます」。
それが帝京平成大学ですね?
「そうです。創立も新しく、たぶん、トップ層での合格です。大学では自由を謳歌します。卒論を認めていただいて、大学院にも進みました。ただ、研究者タイプではなかったんでしょうね。どこかで、『違う』と思いはじめます」。
どこがどう違った?
「仕事をつづけるという意味で、NOだったんだと思います」。
それで、真逆の職人気質の世界に飛び込んだんですか?
「職人の世界のなかでも、飲食に進んだのは、もともと父親が美食家で、ぼくも利き蕎麦ができるくらい、繊細で敏感だったからです。もちろん、飲食の世界に入ったのが26歳だったので、今から職人は無理です」。
ただし、という。
「大学や大学院で専攻した心理学や、昔から得意だったマーケティングやコミュニケーション、またマネジメントのスキルを掛け合わすことで、飲食の世界に、また職人という世界に、何か新しいイノベーションが起こせるんじゃないかと思ったんです」。
新井氏は「存在意義」という言葉を遣う。
「鶏口牛後」ではないが、どうすれば、自身の存在意義を明確に示せるかを、冷静に分析し、その確度を高める道を進む。飲食の世界も、その一つだったに違いない。

天才に出会う。

新井氏が天才というのだから、飲食の世界に棲む大天才ということになるんだろうか?
新井氏は、たまたま縁がって「旅人食堂」「ニライカナイ」を運営する有限会社コパアミューズメントに就職する。同社では、運営や戦略の立案など経営的な業務を行っていたそうだ。
そのコパアミューズメントの社長が、新井氏がいう大天才。とにかく、ヒットを連発する人だという。「真似ができない。いうなら、カリスマですね。今は、沖縄で仕事をされているはずです」。
このコパアミューズメントでタイ料理にハマるんですね?
「そう。研修でタイに行くんですが、衝撃的でした。日本で食べるのとはまったく違います」。
雑多、喧噪。
ガチャガチャと食器が音を立てる。意味不明な言葉が頭上でシャッフルする。後方で、ブルブルというのは、バイクの音。
「そういった日本にはない世界観ですね。そういったものも含め、惹かれてしまいます」。
ちなみに、日本で一般に食べられているのは、タイの王宮料理。新井氏によれば、王宮料理はフランスなどヨーロッパにルーツがあり、どちらかというとソースが決めてとなる濃い味。逆に屋台料理は中国から伝わったあっさりした薄味だそう。
「ぼくが、食べたのは屋台料理です。テーブルには、知らない人がいる。料理もフリー。飾らない世界で、これぞ、タイの食のカルチャーだ、と」。
大天才とはちがうが、ひらめきがあった。
「日本にはないタイ料理と、日本人の居酒屋文化の融合です。もちろん、ぼくはロジカルに物事を進めるタイプなので、飲食店の視察や調査も念入りに行い、ロケーションにもこだわりました。そして、2014年、『タイ料理×居酒屋』がコンセプトの『タイ屋台999』を東京・中野に出店します」。

パクチー鍋、TV局を動かす。

「創業店は12坪で32席です。ロケーションにこだわったと言いましたが、家賃も比較的安い路地裏で、隠れ家的なイメージがわく、ロケーションに出店します」。
資金は父親の退職金ほか。出資金をお願いした時に、ご両親はすぐに了解してくださったそうだ。
「当初は、400万円くらいの月商を見込んでいたんですが、半分くらいしかいかない。お客様がいらっしゃらない時もありました。性格的に焦るタイプじゃないんですが、もちろん、何もしないわけにはいきませんし、逆に課題が明確だったので、あとは解決するだけ。そういうのは、大好きですからね」。
----------戦略@ 奥様が民族衣装を着る。
「まずは、知ってもらわないといけないので、妻に民族衣装を着てもらって、ビラを配ってもらいます。駅と、キリンビール本社前。ビールメーカーの人は、飲食店の利用率が高いんです。もちろん、1度来店いただけばリピートしていただける自信あったからこそ、できた戦略です」。
----------結果@ 200万円前後の売上が300万円をオーバーする。
----------戦略A 平日の週末化。
「つぎに、週の売り上げデータから、平日の週末化を狙った動きを開始します。9日、19日、29日は『カオマンガイの日』に設定。パクチーブームの到来で2日、8日、9日をパクチー食べ放題の『パクチーの日』に。つまり、平日にも『週末のように楽しめる時間』をつくりだします」。
----------結果A 連日、満席。月商は400万円をクリアする。
----------戦略B マスコミを動かせ。
「毎日、満席になるんですが、まだ、中野の人だけなんですね。東京から人を連れてくるために、マスコミを利用します。その仕掛けのためのコンテンツが、パクチー鍋です。SNSでアナウンスしたら、狙い通りTV局が動いてくれました。そのおかげで、狙い通り中野以外からも集客することができたんで、じゃぁ次は東京のど真ん中だと、新宿三丁目に2号店を出店します」。
----------結果B 中野以外のお客様の集客に成功する。
すでにと言っていいだろうか、「タイ屋台999」は、タイ料理のスタンダードになっている。むろん、このブランドコンセプトはぶれない。だから、料理もけっして日本人の味覚に寄せないという。この潔さもまた、新井氏が設計した、飲食のデザインの一つだろう。
2022年8月現在、6店舗を展開。一つひとつに出店の意味がある。コロナ禍の下でも出店を行っている。

社会問題の解決の、その先にある果実。

「タイ料理×居酒屋」がマッチする街は、まだまだあるという。とはいえ、独資では展開スピードに限りがある。だから、フランチャイズビジネスに進出する予定だ。すでに多くの会社から声がかかり、本部機能も整えている。2023年初頭から出店が始まるとのこと。
加速度的に広がっていくのではないだろうか。
「うちは、新宿をみてもわかる通り、10坪で700〜800万円と坪当たりの売り上げが高く、利益率も高いです。タイ料理という強力なコンテンツがありますから、競合もしません。ですから、加盟店のみなさんにも期待いただいていいんじゃないでしょうか。ロケーションで言えば、新宿三丁目みたいな立地が理想です。東京なら、池袋、吉祥寺、町田、立川、渋谷あたりですね」。
むろん、梅田(大阪)でも、成功しているように、地方でも問題ない。長距離マネジメントも梅田で経験しているから、バックアップにも十分期待できる。
それ以外にも、まだまだ多くの仕掛けづくりに取り組んでいる。
「CSV経営というのをご存じですか? 欧米では主流になりつつある経営スタイルです。CSV(Creating Shared Value)は『共通価値の創造』という意味。つまり、社会問題を解決することで経済的な利益につなげるという経営手法です。ぼくらは、このCSV経営の発想から、タイ料理のサプライヤーである生産、流通、製造、販売の各セクションのプレイヤーと協業して、社会的な課題を解決していきながら、新たなビジネスモデルを再構築していこうとしています。具体的には、2021年11月より『Farm to Tableプロジェクト』を推進しています。また、2022年4月から食品商社と提携し、タイ野菜の日配システム『999デリー』を直営店舗でスタートしています。その意味でいえば、ぼくらはもうイチ飲食店ではありません」。
協業して、問題を解決する。もう一つ挙げてくれたのが「食品事業」である。
「ぼくは、集合体ビジネスといっていますが、ぼくらのように独自のコンテンツをもっている企業が仲間になって、例えば…そうですね。『社食』が抱える問題を解決するとします。『社食』といえば、安くて、ボリューミーで、まぁ、旨い。でも、集合体であるぼくらの、多品種のブランドを利用いただいたらどうなるでしょう?安くて、旨くて、ボリューミーで、かつ、本格派で、いずれも高品質です。そんなブランドを日替わりで楽しめたら、『社食』を利用することが、会社に行く楽しみにもなるんじゃないでしょうか。すでに、この集合体には、何社も参加してくれています」。
たしかにもうイチ飲食店ではない。「タイカルチャー」を広げるというビジョンを、飲食店というイートインの世界だけではなく、そのコンテンツを利用して、幅広い領域からアプローチすることで実現しようとしている。
今回は、幼少期の話から、遠泳、マラソン、またタイ料理の話から、未来づくりのための経営の話まで、多彩な話が聞けるインタビューとなった。
黒ハットのいでたちは、いつものスタイル。ユニークで人懐っこい笑顔も、写真、みたままだ。

思い出のアルバム
 

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