店長からスタートし、1年で営業部長の要職に就き、その後、常務、副社長を経て1984年に代表取締役社長に就任する。大河原、41歳の時である。大河原が敬愛してやまない彼の父はかつて、息子の大河原に次のように言ったことがある。中学校で落第し、その報告をした時のことだ。父はいつくしむような目を向け、抱擁するように「君は奥手だから」と。その一言がどれほど大河原を勇気付けたか。大河原が時々、自分をカメというのも、この言葉から生まれているのかもしれない。
さて、41歳で日本ケンタッキー・フライド・チキン（株）の社長に上り詰めた大河原は、果たしてカメだったのだろうか、奥手なのだろうか。父の期待通り、遅れて、しかし、大きく花は開いた。いつの間にか、大河原は日本の飲食業界のトップを走ることになったのである。
その後、18年間、社長を務めたのち、同社を退職。2003年、（株）ジェーシー・コムサのＣＥOに就任する。
さて、最後に、大河原が日本の飲食業界に残したものは何か、ということを考えてみたい。ファストフードという一つのカテゴリーか。それとも、新たな食文化なのだろうか。
株式会社ジェーシー・コムサのホームページの冒頭にはこう書かれている。「食を通じて日本の文化を豊かにしたいと願っています」と。
そう、私たちは、豊かになった。いくつものバリエーションの中から自らの意志で、好きなものを、好きな時に、好きなだけ選択できるようになったからだ。その意味でも、大河原の功績は大きい。