これまで経営が一番苦しかったのは、おそらく焼肉店ならどこもそうでしょう、BSEの時です。BSE問題が報道されてから1年後には、当社の売上高は前年比でマイナス2億円と大きく下回りました。手持ちの金2000〜3000万円ですら、社員の給料や店の運営費などに当てると、たちまち一ヶ月ぐらいで消えていきました。
 電気代も水道費もガス代も、数ヶ月滞納は当たり前。止められる直前に一か月分だけを捻出して何とか支払ってストップを回避する、という自転車操業でした。5店のうち1店は確実に潰さなくてはいけないだろうと、ある程度覚悟を決めて踏ん張りました。
 しかし、これまで何とか店を潰さずに難を乗り切ることができたのは、社員たちのおかげだと思います。「彼らにまっとうな生活をさせてやらなければ…」という責任感だけで私は動いてきました。経営効率化のためには人員削減を強行したり、社員をバイトに降格させる方法が有効で、実際そういうやり方で起死回生した企業もあるようでしたが、私はそういうことは一切しませんでした。社員たちの人生は私の手の中にあると思うと、それだけはできませんでした。

私は会社を大きくすることより、社員を大切にすることの方が重要だと思っています。店は100店なくてもいいので、社員一人ひとりを大切にしていきたい。きれいごとを並べるつもりはありませんが、結局その方がみんな楽しい人生を送れますから。
 当社はもともと社員比率が高く、現在は約50人の正社員がおります。そして“父ちゃん、母ちゃん、大家族!”的な和気あいあいとした雰囲気なので(笑)、社内結婚も多いのです。昨年はどういうわけか出産ラッシュで(笑)、入れ替わりで産前産後休暇に入ったり、また戻ってきたり。居心地が良いためか“出戻り”が多いのも特徴です。社員全体の4分の1が出戻りですよ。これは自慢ですね(笑)。そういう楽しい職場なので離職率も低いのです。

当社では「全員が目標を達成できるはずだ!!」などと社員にプレッシャーを与えるようなことはしません。人間にはいろいろなタイプがいて、メインの木になる人もいれば、その周りで木を支える土のような人もいます。どんなタイプの人も会社には必要です。だから適材適所で、ひとつの集合体として大きく成長できればいいと考えています。
 長年経営者をやっていたら、経営難に陥ることもあれば、スタッフ全員に一度に辞められることもあります。でもそんなことでくよくよ悩んで、ストレスをためて体を壊しても“百害あって一利なし”だと思います。「商売にはそういうことはつきものだ」と、私は割り切るようにしています。
 例えば、前日にどんな嫌なことがあっても、私は翌朝、何食わぬ顔でいつものように「よぉ!」とみんなに声がけします。経営者に限らず、そういうのは誰にでもあるもんじゃないですか? 失敗した翌日は「店に出たくない。風邪でもひいたらいいのに…」なんて願うこと。心が弱い時ほど、ひょうひょうとしてればいいんですよ(笑)。そうすればそのうち新しい風が吹いてきますからね。(笑)

私は海外旅行が趣味で、これまで23カ国を回ってきた経験があります。それぞれの国の食文化やレストラン事情は非常に多彩でユニーク。いつも興味深く感じています。だから何年か後には海外にもレストランを作りたいと考えています。例えば「NYあたりで、和牛A−5クラスを食べさせたろか…」などと想像を膨らませると、とてもわくわくします。それが今の私の源動力にもなっています。