一度目の落第で、大河原には、ペナルティが課せられた。校庭でも遊ぶことが許されないのだ。「遊ばず、学べ」ということだろう。大河原は遊びもしなかったが、学びもしなかった。実は、一人で掃除を徹底的にやった。「他にすることがなかったから」というのが本人の弁。しかし、この大河原を見ていた神父が、少年の寡黙で献身的な姿に心を打たれた。「だから、二度目の落第でも救ってもらうことができた」と大河原は回顧している。学びはしなかったと書いたが、この掃除から、大河原はクリンリネスの基本を学んだ。同時に、誉められることで、さらに精力的に働けたことを通して「人の原動力」の原点を学んだのではないだろうか。「社会貢献」の精神も、この学校時代に育まれていったものだ。
邪推かもしれないが、大河原がこの時期、勉学に力が入らなかった理由の一つに、大河原家が傾いでいくなかで、「人間の本来あるべき姿とは何か」、という問題の答えを探していたからではないか、という気がする。「物質」ではなく、「精神」の豊かさの大事さを大河原は少年の頃から、徐々に気づき始めていたのではないか。
成績はたしかに芳しくなかったが、世界史ではこの偏差値の高い学校でトップの成績を収めていた。横須賀に近いこともあり、戦闘機にも興味があって、飛行音を聞いただけで、エンジンの種類を区別できたそうだ。好きなことは徹底的に追求する大河原の性格は、中学時代から発揮されている。